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# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。
ばけものよふけのかおみせ
化物夜更顔見世(化物夜更之顔見世)
出版年:1791(寛政三)
作:桜川慈悲成
画:歌川豊国
物語
人間が百物語をすると百話目にばけもの仲間の誰かが出て行く決まりになっている。それならばけものが人間の噂を順に百度話したら人間が出てくるんじゃないかと、越後の大坊主は仲間を集めて百物語を始める。話終わるたびにひとつずつ灯を消していき、最後のひとつを消そうとしたところへ「しばらく、しばらく」と現れたのは人気の歌舞伎役者、白猿(団十郎)だった。
団十郎はばけものの名前を読み込んだ顔見世口上を言い、悪役でもかなわない「しばらく」を聞いては大入道も降参して娘のお六とその弟のちょろけん小僧を白猿に差し出した。白猿は二人を家に連れ帰り、猫っかわいがりして(原文では「ねずみでも飼っておくようなつもりで」)大事にしていたが、白猿の手下で与四郎というものがお六をみそめる。お六も与四郎に惚れて相思相愛に。
ところで、お六には川太郎(河童)といういいなづけがいて、大坊主はお金に困っていた時に川太郎から支度金としてカッパ六十四両(はっぱろくじゅうしの洒落)の金子を受けとっていた。なのにお六がいつまでも帰ってこないので川太郎は腹をたてる。
与四郎は金さえあればお六を返さなくて済むと思い、山医者(インチキ医者)から六十四両借りたが返すあてはなかった。そこでお六は、花水橋に住む金持ちの野良狐のところへ忍び込んで箱にしまってあった包みを盗んでくる。そして、取り立てに来た山医者に、お金ならここに、と包みをあけてみせるが、小判ではなかったので失望して投げ捨てる。それを見ていたちょろけん小僧は「これこそ狐の名玉。これさえあれば何にでも化けられる」と拾い上げて、玉の力で小判を沢山出して姉を救う。
お六を取り戻したい川太郎。人間の色男に勝つにはばけものの姿では無理だろうと、花水橋の野良狐をたずね術で人間に変えてもらう。そしてお六に会いに行くが、なぜか術が効いておらず「化物なんかになびくわけないでしょう」と振られてしまう。川太郎とその手下は、与四郎と名玉の力で人間に化けたちょろけん小僧に撃退される。
川太郎たちが話が違うじゃないかと野良狐のところへ詰めかけると、野良狐もおどろいて力の源である名玉を箱から出してみると、包みから出てきたのは唐の芋(マニ宝珠のような丸い形のサトイモ)だった。それもそのはず、狐の名玉はお六が盗み出し、今はちょろけん小僧が持っているのだった。
メモ
江戸中期のものとしては話にメリハリがあり、お芝居のパロディや駄洒落(地口)をふんだんに盛り込んだテンポの良い作品。
・妖怪の頭が越後の大坊主
・大坊主に三つ目という設定がなさそう
・長音記号の「引」
・ちんちん鴨かしわ
・寛政三年、流行りのペットはネズミ