@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

亀山人家妖(きさんじんいえのばけもの)

https://honkoku.org/app/#/transcription/BDACF317FE25F56E44CD7C9F955385EB/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。

きさんじんいえのばけもの
亀山人家妖
発行年:1787(天明七)
作:朋誠堂喜三二
画:北尾重政

登場人物

 喜三二
 亀山人
 手柄の岡持
 蔦屋重三郎(蔦十=蔦重)
 遊女たち

あらすじ

上巻:
 戯作者(げさくしゃ)の喜三二は版元の蔦屋重十郎にたのまれて化物の草双紙を書くことなったがアイデアが出ず、考えあぐねて居眠りをすると夢に喜三二、亀山人、手柄の岡持(全て同一人物のペンネーム)が現れて、流行りの皆既日食をネタに何かできないかなどと相談を始めるが、やはり書けなかった。
 しまいには蔦屋に手詰め(缶詰め)にされるが、そこへ一人の入道が現れて「自分はもと化物だったが素人(人間)になった。箱根の先どころか今じゃ日本中に化物はいない。役者を見て化物だと言うような野暮なことではまったくウケない」と言う。
 喜三二がおびえながら生返事をしていると突然真っ暗になり、化物どころか自分の姿も見えなくなった。しばらくして目を開けてみるとあたりは元どおり明るくなり、どうやら恐れから目をつぶっていただけだった、というオチ。これで一巻をごまかせたとほくそ笑む作者の喜三二。

中巻:
 手柄の岡持(喜三二の別名)は人のいないところにこそ手柄があると言って、仲間を集めておいてけ堀に釣りにでかけた。真剣に釣っているうち、うわさのとおり「おいてけ、おいてけ、おかもちおいてけ」と声がする。きっと入れ物のおかもちの事だと、魚の入った入れ物を置いて行こうとするが、仲間は「お前のことに違いない」と言ってきかず、岡持を木にしばりつけて逃げてしまう。
 そこへ遊女のしまうらが通りがかり「あんまり真剣に釣っているのでおどかしたんですよ」とネタバラし。

下巻:
 しまうらとともに吉原へやってきた岡持は、遊女たちが化物みたいな顔に見える。しかし、遊女たちに褒めちぎられていい気になると、みな美人に見えるようになった。
 岡持が寝てしまうと遊女たちが面白そうに内緒話をはじめる。「おだてに乗ってすっかり色男のつもりだよ」しかし岡持は寝たふりで全部聞いてしまっていた。
 おだてだと知ったあとでもほれた弱みかまだ美人に見えるんだから勝手なものだと自分であきれる岡持。化物なんか人の気持ちが見せるものだという話。

ちょっぴり解説

 江戸中期の化物草紙はワンパターン化しており「野暮とばけもの箱根の先」という言葉の通り、江戸に化物はいない、なぜなら素人の人間のほうがよく化けるので、妖怪たちはこりゃかなわんと箱根山の向こうまで逃げて行ったのだ、というような話が無数に存在していました。喜三二を訪ねてきた元ばけものの入道が言っている「役者を見て化物だと言うような野暮」は、そういった草双紙のことを言っています。マンネリをおちょくっているのでしょうが、沢山あるということは、それだけ人気があったという事でもあります。

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元妖怪の入道がたずねてきたシーン。左ページは書く事がないので真っ黒にしたと書いてあります。こういうギャグは昭和の漫画とほとんど同じ感覚です。
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木にしばりつけられた岡持を助ける遊女のしまうら一行。
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自分が考えたばけものが気に入らないので消えろと言っている喜三二