@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

清明物語(せいめいものがたり)/[しのだづまつりぎつね付あべの清明出生]

https://honkoku.org/app/#/transcription/B8C7119B36C1F7AC1E7EB462C592EE7B/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。

 この資料は最初のほうに大きな破れがあり、正確な外題がわからなくなっており、表紙には「清明物語」という題がつけられています。ただし、内容は「信太妻」という古い浄瑠璃と同じもののようです。そのため東京大学総合図書館では [しのだづまつりぎつね付あべの清明出生]というタイトルで整理されているようです。

 ほとんどが文字で、いくつか挿し絵のページがあります。草双紙ではないかもしれないですね。

せいめいものがたり
清明物語
発行年:1674年(延宝二)
作:不明
画:不明

登場人物

  • 石川悪右衛門つね平(つねひら):蘆屋道満の弟。熱病の妻を治すために狐をとろうとして保名と争いになる。
  • 蘆屋道満:悪右衛門の兄。陰陽師清明と術を競って負ける。保名を謀殺しようとして成敗される。
  • 安倍保名:悪右衛門が狩ろうとしている子狐を助ける。
  • 安倍泰明:保名の父。息子を捕らえた悪右衛門と戦って死ぬ。
  • 安倍清明:保名の息子。陰陽師。幼名は童子(どうじ)。元服してからはやすあきらと改名。
  • 信太の女房:保名の妻。清明の母。その正体は保名が助けた狐。
  • はくとう上人:大唐国の「じやうけいざん」に住み、中丸に学問や秘術を授けたとされる僧侶。実は文殊菩薩。十才になった清明の前に現れる。
  • 清六:悪右衛門の家来。
  • 山下伝次:道満の家来。
  • らいばん和尚:河州葛井寺の住僧で、悪右衛門に捕らえられた保名の命ごいをして助けるが、実は信太の狐が化けたもの。
  • 三谷のぜんじ:安倍泰明の家来。

以下は過去の人物として名前が出てくる

  • 芦屋宿禰清太:あしやのすくねきよふと。道満の先祖。
  • ほうどう仙人:法道仙人。もろこしの仙人で清太の師匠。/この人は天竺から日本に飛来したという伝説があり、6〜7世紀に兵庫県加西市一乗寺を中心に活躍し仏教と陰陽道を結びつけ、いくつもの寺を開いたと言われている。飛鉢の法という方術を使って托鉢を行い、その途中で米俵を落とした場所が米堕と呼ばれ、後に米田町(加古川市)になったという説もあるとか。
  • 安倍中丸(仲麻呂):清明の先祖で大唐国のはくとう上人から様々な秘術を習ったとされる。その秘術をまとめた『金烏玉兎集』が清明の家に伝わっているが、誰も理解できないため存在が忘れられていた。
  • 吉備大臣:吉備真備のこと。保名の妻となった信太の狐は吉備真備が安倍の家に恩を帰すためにあえて畜生の苦を背負って生まれてきたものとされている。/この本にはそれしか書いてないが、真備が唐に渡った際に、唐で死んだ中丸が鬼となって真備を救ったという別の話があるらしい。

物語

 (最初のページが破れているため、この資料は石川悪右衛門つね平の妻が熱病にかかって苦しんでいるところから始まる)
 悪右衛門は妻の病気が死霊や生き霊のせいではないかと考え、都にいる兄の道満に助けを求める。道満は占により「これは ぎやくきやうちう という病で、若き牝狐の生き肝を飲ませれば治る」と言う。そこで悪右衛門は勢子を大勢つれて信太の森へ狐狩りにゆく。

 (このあたりも破れていて状況がわかりにくいが)保名は信太の森の神社のようなところへ参拝に来ている。そこへ悪右衛門の勢子が追いつめた子狐が飛び込んできたので、かくまって逃がしてやる。そのことで悪右衛門と諍いになり、捕らえられて首をはねられそうになるが、そこへ河州葛井寺の住僧でらいばん和尚が現れて、出家のならいで目の前で命をとられそうになっている者を救わないわけにはいかないと命ごいをして助ける。悪右衛門が立ち去ると和尚は「自分は人間ではなく、あなたに助けられた狐です」と正体を告げて姿を消す。

 疲れ切った保名が喉を潤そうと谷川へ降りると、十六才くらいの女房(女性くらいの意味)が崖から落ちそうになっているのをみつけて助ける。娘は保名を家に誘い休ませる。一方、保名の父、安倍泰明のもとに保名が悪右衛門に捕らえられたとの知らせがある。すぐに息子を取り返しに行くが、悪右衛門は「保名なら葛井寺の和尚に言われて帰した」と言う。そんなはずがあるかと違いに一歩も引かずに争いになり、泰明は悪右衛門に打たれ死亡。そこへ安倍家の家臣・三谷のぜんじが到着。悪右衛門はその場を逃げ出す。

 悪右衛門が暗い山道をさまよっていると庵がある。これは保名が助けた女房の家だが、そうとは知らず戸を叩く悪右衛門、出てきた女に「山賊に襲われて追われているのでかくまってくれ」と言う。そこへ三谷も追いかけてきて、主の仇と襲いかかる。悪右衛門は三谷に組み伏せられ「この庵の主人がいるなら助けてくれれば所領を望みのままに取らせるぞ」と呼びかけるが、庵の中から保名が出てきて悪右衛門の首を取る。

 保名はその後も女房(実はきつね)と山奥で暮らし、男の子がひとりいる。この子は安倍のどうし(童子)と名付けられる。後の安倍晴明である。ある日、女房は息子の昼寝中に気をゆるめ、水鏡に自分の正体を映してしまう。それをたまたま起きてきた息子が見て、母上が恐ろしい姿になったと大騒ぎする。その場はなんとかなだめるが、いずれこの話を父の保名にもするに違いない。そう思った女房は、自分は命を助けられた信太の森の野干(きつね)であると書き置きして出て行くことにする。女房が残した「恋しくば尋ね来てみよいずみなる信太の森のうらみくずのは」の歌をたよりに保名は息子を抱いて信太の森に分け入る。

 母だったものはすっかり野干にもどって、狩人がかけた狐罠に逆に狩人をはめるなどと賢いけだものとして暮らしていた。そこへ保名が子供を連れてやってきて、姿を見せてくれと懇願する。もしこの世で会えないのなら此子を殺して自分も死ぬと言えば、やっと野干が現れて人間の姿に変わる。しかし野干は一度正体を知られたからにはもとの暮らしには戻れないのだと言う。息子は成人すれば必ず天下にただ一人の者になるからと、四寸四方の黄金の箱と水晶のような玉を授ける。箱は龍宮世界の秘符で、これを使えば天地日月人間世界のすべてを知ることができる。玉は耳にあてて聞けば鳥獣の声を理解できるようになる。これを持って早く立ち去りなさいと言うので、保名はその場を去り息子を立派に育てようと決意する。

 月日は流れ保名の息子は十才になり、名を「安倍童子はるあきら」と改めた。非常に賢い子供で八才の頃には書を読んだほどである。ある日虚空に獅子に乗った白髪の老僧が現れ、母の前世の事や、先祖・仲丸が大唐で学んだ事などを語り、一度だけ死んだ者でも必ず蘇生できる力を授ける。上人は文殊菩薩の姿に変わって飛び去った。その話を聞いた保名は先祖から家に伝わる書物『金烏玉兎集』を息子に与えたので、いよいよ神通を極めるようになる。

 ある時二匹のカラスがさえずるのを見てはるあきらは母からもらった玉を取り出して耳に当てると、都で大殿(おとど)が造営された際に蛇と蛙が生き埋めにされたせいで帝が苦しんでいるのだとさえずっていた。はるあきらは今すぐ都に上りこれを占って世に出る時だと父に話す。

 保名と息子は参内しこのことを帝に申し上げる。帝の仰せでその場所を掘ってみると、たしかに蛇と蛙が埋まっていた。それを取り除いたところ、帝の御病気はたちまち平癒する。帝はよろこび、これからは清明と名のり宮仕えするようにと言う。

 その話を聞いた占博士の道満、清明に自分の地位が脅かされるのをおそれ、そんなものはインチキだと主張し、術比べを行い、どちらが負けても勝った方の弟子になると決める。勝負は蓋を開けずに箱の中身を占うというもので、最初の勝負は引き分けに終わる。二回戦では道満が「大柑子(おおこうじ、蜜柑のこと)が十五個」と占うが、清明は術で中身を変えて「鼠が十五匹」と占って勝利する。

 大恥をかいた道満は安倍親子を無き者にしようと考える。清明が夜勤の間に偽の勅使で保名を誘い出し、一条の橋で橋板をはずして川に落とし、寄ってたかって襲いかかったので保名は死に、その死骸をトンビやカラス、野良犬が食いちぎって持ち去る。

 そこへ夜勤明けの清明が通りがかり、かろうじて生き残った者からことの次第を聞く。橋の下には父親の無慚な姿がある。はくとう上人からさずかった一度だけ死んだ者でも必ず蘇生できる術を試すのは今だと思い、橋の上に祭壇をもうけて術を行うとトンビ、カラス、犬たちが持ち去った保名の肉片を持って戻ってくる。保名は元の姿になり息を吹き返した。

 内裏では清明が参内しないので騒ぎになっているが、道満が「父が急逝したので内裏に汚れを持ち込まぬよう休んでいるのでしょう」という意味のことを言う。そこへ清明が参内する。皆驚き、父上が亡くなったのなら帰りなさいと言われるが「はて、誰がそんなことを」と清明。それを申し上げたのは自分であると道満。しかし、保名が死んだことを知っているのは清明以外には保名を襲って殺した者だけである。

 道満は自信満々で「死んだ者が生きているというなら、一つしかないこの首其方にとらせよう」と言う。そこへ保名も到着し、ことの次第を申し上げる。帝は清明の力に感じ入り、道満の件は思うままにせよと仰せになる。清明は道満は見事道満の首を落とす。

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清明が父の保名を蘇生するシーン