@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

化物昼寝鼾(ばけものひるねのいびき)

https://honkoku.org/app/#/transcription/AC1228959873CFB471D6EF43B1C5BCEA/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


ばけものひるねのいびき
化物昼寝鼾
発行年:1784年(天明四)
作:市場通笑
画:鳥居清長

登場人物

見越し入道、ばけものの総座頭
大頭の小僧、豆腐小僧の身なりだが豆腐はもたず、文の使い走りをしている。
その他ばけものたち多数

物語

 最近では通人がもてはやされ化物は不人気。化ける事も素人(人間)のほうがうまい。そこで人気の踊り子さんを呼んで最新の流行を研究しようとするが、どうもうまくいかないようだ。

 昼寝鼾というタイトルは、化物が真夜中に活動して昼は寝ているという事で、内容にはあまり関係なさそうである。

この本の現代語訳をキンドル用の電子書籍にしました

 キンドルのUnlimited(読み放題)会員ならば無料で読めます。買い取りの場合は300円くらいです。キンドルでサンプルを取り寄せると前書きを読めると思います。オリジナルが当時の流行りものを詰め込んだ文章になっていて、そのままだと訳してあるのに1ミリも意味がわからない文章になってしまうため、今回の現代語は遊び要素だらけになってます。とにかく、当時の人が笑いながら読んだと思うので、どこが笑いどころなのかわかるようにしてみたつもりなんですが、果たしてうまくできたかどうか。ぜひお手にとってお確かめください。


▲製作途中のものをtwitterにアップしました。こういう感じで…ええと、原文のニュアンスはくみ取ってるつもりなんですが、ぜんぜん直訳じゃない感じになってます。ああ、石は投げないで。おひねりなら痛くても我慢しますけどー。

 なお、上記の全面冗談みたいな翻訳以外に、いちおう直訳っぽいのも作ったんですよね。電子書籍に収録するかどうか迷って、注釈を付けないと意味がわからない文書になってしまうけど、付けるとレイアウトが面倒だなと思ってやめちゃったんですよね。注釈なしのものでよければ下記にありますのでご覧ください。無料です。
drive.google.com




メモ

  • 見越し入道が化物の総座頭。
  • 大しまの布子まるぐけ帯、見越し入道のファッション。天明四年から見てかなり古風という設定らしい。まるぐけは布を縫って中に綿を詰めて作る紐のことで現在だと帯締めにたまにある。その太いものを帯としていた時代があるのだろうか。
  • 大しま、地名ではなく大縞(太い縞模様)のことらしい。大島とも書く。挿し絵を見ると太い縞が交叉したチェックの模様になっている。チェックは格子縞と呼ばれており、縞模様の一種。
  • 通人(つうじん)、遊里遊びの通。ただ詳しいというより、センスがよくお金の使い方が上手だったりしてモテるイケメン的なイメージのようだ。通人の中でも特にイケてて有名な人は大通(だいつう)と呼ばれており、多くの草双紙が通人・大通をテーマにしている。
  • 野暮と化物箱根の先、豊かでお洒落になった江戸には野暮や化物のようなものはいないという事。江戸から見て箱根の山の向こうは外国というか、何もないど田舎みたいなイメージだったらしい。草双紙に出てくる化物はだいたい箱根の先に追いやられる運命。
  • 矢口の渡、大田区の矢口から多摩川を渡るための渡し場。平賀源内が書いた『神霊矢口渡』というお芝居に出てくることで有名になったとか。新田義興がここを渡ろうとした時、船頭が舟に穴をあけて自害に追い込み、足利尊氏から褒美をもらったというエピソードがあり、うまいことやって儲ける、というような意味ではないかと思われる。
  • 金平、坂田金平(さかたのきんぴら)。坂田金時の息子として悪者を退治するお芝居が多数あったらしい。そのため草双紙では金平は何も説明がなくても化物の敵ということになっている。
  • 『信仰記』、祇園祭礼信仰記のこと。その四段目で、雪姫が桜の木にしばられて、足で描いたネズミが本物になって縄をとくという話があるらしいです(見た事はないけど)。おそらく雪舟の逸話を元にしている。
  • 猫は化けても踊るくらい、鍋島の猫騒動がお芝居で有名になるのは嘉永期(1848〜55年)。18世紀末だと品川の化け猫遊女が話題になりはじめた頃かもしれないが。
  • 鬼娘、当時本所にあった回向院で善光寺の出開帳があり、その人出をあてこんで出た見世物小屋にほんものとされる鬼娘が出ていた。それがあまりに人気なので、隅田川の対岸に別の見世物小屋が立ち、作り物の角などをつけた偽物の鬼娘が出ていたという話が『武江年表』などにある。鬼娘を主人公にした草双紙などもいくつか作られている。
    • 鬼娘の見世物があったのは安永七年(1778年)のこと。『化物昼寝鼾』が出版されたのは天明四年(1784年)とされているが、6年も隔たりがある。6年も前のことを話題にするものなのかと考えると、出版年が実はもうちょっと前なのではないかとも考えられる(個人的考察)。あるいは鬼娘の興行が善光寺の出開帳のあとも続いていたのかもしれないが。
  • どっと落ちを取る、喝采を受けること。落ちは現代語と同じで結末のこと。お芝居のラストのような最高に美味しい場面で受ける事。
  • 読み、読みカルタという、当時のトランプのこと。
  • 読みを打つ、読みカルタを使ってするゲーム(博打)のこと。
  • めくり、読みカルタを使ってするゲームの一種。
  • 屋根を葺く、カルタ賭博を意味する隠語。カルタのような遊戯は雨か雪の日に屋内ですることから。
  • 屋根舟、屋根のある舟。屋形船のようなもの。屋根船で向島などの繁華街に乗りつけるのが当時の男性のあそびコースだったらしい。
  • 地獄おこし、石見銀山、どちらも殺鼠剤。
  • 芸者、このお話の中では芸者とも舞子とも呼ばれている。遊女ではなくて、歌や踊りで酒の席を盛り上げる職業。男の芸者もいる。
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踊り子の姐さんたちに流行を習う時代遅れの化物たち