@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

化物鼻がひしげ(ももんじいはながひしげ)

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# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


ももんじいはながひしげ/ばけものはながひしげ
化物鼻がひしげ
発行年:1781年(寛永十=天明一)
作:市場通笑
画:鳥居清長

物語

 『化物箱根の先』という本で化物が箱根の先に逃げて行き、きつねだけが江戸に残り稲荷となった(江戸にいるなり→稲荷の洒落)。狐たちはどうにか人を化かそうとしたが子供でも恐がらない。野良狐を集めて相談するが、草双紙の作者までばけものを馬鹿にすると愚痴しか出ない。

 その頃、化物の総座頭である見越し入道は箱根で商いしようにも元手がなく、百姓をしようにも土地がない。それでも可愛い妻子のため、いつかもう一旗揚げようと思っている。そこへ狐から、もう江戸のことは諦めてほしいと手紙が来る。

 この上は神仏に味方してもらうしかないと、大磯の化け地蔵に頼みに行くが、化け地蔵は朝比奈に酷い目にあっているので(詳細は不明、過去作にそういう話があったのかもしれない)ばけものの味方をすることは出来ないが、悪い心を持ってはいけないと助言する。

 狐たちは、手紙では話が通じないと代表者を箱根によこし「あちらでは大通(だいつう)ばかりをありがたがっています」と江戸の様子を語る。そこで見越し入道は、各地に散り散りになったばけもの仲間を集めようと僧侶に化け、越後の西明寺と名のりあてもない旅に出てしまう。

 旅の途中で坂田金平の家に立ち寄るが、暴れ者だった金平もすっかり引退して山奥でけだものたちと暮らしていた。見越し入道がまだやる気でいるのを「まだ化けるつもりか。道理で古くさいものは化けかかると言うわけだ」と馬鹿にする。

 見越しは金平の家で心が揺らぐ。心配して探しに来た狐と狸に「いつまでも息子株のように化けることにこだわらないで、心を入れ替えないといけないと」弱音を吐くが、狐・狸は「人は一代名は末代と言うじゃありませんかと」励ます。それが通じ、見越し入道は見せ物小屋で儲けようとするが、銭儲けの方法を知らない。蝶よ花よと寵愛する息子の一つ目小僧を見せ物に出すが、木戸銭を安くみつもりすぎて少しも儲からない。やはり当世を知らぬ野暮と化物である。

 タイトルの「鼻がひしげ」は思い上がりの鼻が折れる(くじける)という意味だろうか。大人気だったばけものたちが落ちぶれた様子を言ったものと思われる。金平の家で鼻をすりこぎにしてすり鉢で何かすっている天狗は完全に脇役だが、タイトルを受けた洒落であろう。

登場人物

見越し入道(越後の大坊主)、ばけものの総座頭
その妻、ろくろ首のおろく
その息子、一つ目小僧
きつね
たぬき

メモ

  • ばけものの頭は見越し入道だが、僧侶にばけ越後の西明寺と名のったことから越後の大坊主とも呼ばれるようになる。(見越し・越後同一妖怪説)
  • 妻はろくろ首、息子は一つ目小僧
  • 中橋、「ない」にかけた洒落。なんにもよふかなかはし等。
  • やすくする、馬鹿にする。見下す。
  • 子ゆえの闇、親が子供可愛さのあまり思慮分別を失うこと。
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金平の家で話す見越し入道。坂田金時・金平は妖怪の敵と決まっている。みこしが金平の腰を揉んでご機嫌をとっているのはそのせい。