化物見世開(ばけものみせびらき)
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ばけものみせびらき
化物見世開
発行年:1800(寛政十二)
作・画:十返舎一九
物語
野暮と化物箱根の先と言われる世の中、金平にへこまされた妖怪たちは住み慣れた江戸を去って箱根の先へ引っ越すことになった。
とはいうものの、当てがあるわけではない。伊豆の山奥に貸し家を見つけて大家の熊の化物に会いに行くと、ここは十年ばかり前まで安く貸したけれど、今は家も古くなり倒れかけ草ぼうぼうで妖怪には申し分ない物件なので少しお高うございますよと言われる。
見越しは熊の大家から家を借りる。化物のひっこしは世話のないもので、道具は勝手に手足が生えて歩くし、なんでもむさくるしく散らかしておけばいい。大工を呼んであそこの壁が満足だから壊してくれと頼み、さっぱりしたところで新しい商売を考える。
化物が出る時は生臭い風が吹くものだが、田舎の化物どもは風を吹かせる術も知らないだろうと、ふいごに腐った魚の骨を仕込んだものを発明して売り出そうとする。しかし田舎の化物たちは「突然の精進の日(お通夜など)にもうっかり使ってしまわないとも限らないので必要ないだろう」と言って、買いたがる者は少なかった。
ふいごで大損した見越しのところに狐が現れる。村の若衆が百物語をするが、何も出やしないと言われるのが残念なので、ぜひお弟子方ともどもおいで下さい言う。狐と出演料の交渉をする見越し。# 百物語は最後にロウソクをふき消すと幽霊やお化けが現れると言われている。
百物語のおどかし役に成功すると、今度は隠れ里の雀がやってきて、邪険婆(いじわる婆さん)にくれてやるづづらの中に化物を入れたいからと出演依頼が!
こうして少し儲かったので、見越しは柳の大木のところに出る幽霊から株(店の権利)を買い取った。弟子にいいつけて化けて出るのに具合がいいように直させる。こうして見越しは通りがかる人間のうち、心の曲がった者をおどかして金銀を奪う仕事を始める。
柳の下でかなり儲けた見越し入道は、仲間のばけものたちにお金を貸してやるようになる。お菊は自分の井戸を抵当にいれ、猫又は猫又屋敷を貸し質にしてお金を貸してほしいと言いにきた。
かくて見越しは箱根の先で大成功し、仲間からも田舎の化物からも慕われ、化け方の心得を教えるようになった。曰く「強いものにちょっかいを出すな、弱いやつは構わずにおけ、心の悪いやつは思い切りおどかしてやれ」
メモ
- ばけものの頭は見越し入道。
- 箱根の先に引っ越したあとの話。
- この物語では、化物は無闇に人を化かすのではなく、心の悪い者のところへおどかしに出るものだと説明している。
- 似た山(仁田山)、似て非なる物、贋物。似たりに山をつける言葉遊びで通人用語。上州山田郡仁田山地方の紬が、見た目だけ紬で品質が劣るというので仁田山にかけた洒落として使われる事もある。
- あしながじま(足長島)、「…はあし(悪し)」という文章に足長島をつける洒落。言葉遊び。足長島は足が胴より異様に長い人が住む伝説の島か。
- 儘の皮、仕方がない。
- 大磯切通の辻地蔵、化け地蔵として草双紙にもよく登場する。多くは知恵者として尊敬されているが、この話では中古品として見越しに買われて店のインテリア(屋外なのでエクステリアか)にされている。
- 大島の広袖を着ている人と頭に力紙のある人、金時や金平など、歌舞伎に出てくる強い人の衣裳を言ったものか。
- かかし、かかあ(妻)のことを言っている。