@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

地獄沙汰金次第(じごくのさたもかねしだい)

https://honkoku.org/app/#/transcription/85210F73D7E4AFF37F41ED11C26CEAB6/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。あまり状態のよくない本で読むのに苦労しましたが、ストーリーがわかる程度には翻刻できてると思います。

じごくのさたもかねしだい
地獄沙汰金次第
発行年:1782年(天明二)
作:伊庭可笑
画:鳥居清長

登場人物

  • 小林朝比奈(こばやしのあさひな):地獄に乗り込んで閻魔をやりこめる。
  • 閻魔大王閻魔王):地獄の王。最近は通人ぶってうまいものを食べ、草双紙など読んでさぼっている模様。
  • 十王:閻魔の部下で死者を裁く役目。
  • 牛頭(ごず):頭だけ牛の鬼。
  • 馬頭(めず):頭だけ馬の鬼。
  • その他鬼たち
  • 三途川の婆(そうづがわのばばあ):脱衣婆のこと。昔は三途川を「そうずがわ」「しょうずがわ」などと読んだ。
  • 地蔵:魂が生まれ変わる六つの世界(六道)を見守る仏。
  • みるめかぐはな:ほとんど名前だけ。燭台のようなものに乗っている二つの頭で死者の善悪を判断する。

物語

 閻魔といえば恐ろしい顔をして死者の悪行を見抜く地獄の裁判官だが、それは昔のことで今ではすっかり通人ぶってうまい菓子をかじりながら地獄草紙など読んで楽しんでいる。月のうち十六日だけは縁日なので、その日だけは真面目に勤めているようだ。

 ある日、娑婆(現世、この世)から小林朝比奈が年始にやってくる。年始といっても挨拶するのはむしろ地獄のほうで、朝比奈は言いたい放題やりたい放題。閻魔は自分が出るとこじれるからと仮病をつかって十王と鬼たちに接待させる。朝比奈は閻魔が病気なら治るまで何年でも待つといって帰ろうとしない。それどころか馳走しろ、酒をよこせ、地獄の酒は不味いから娑婆にとりに行けと言う始末。

 そこで十王たちは相談して、娑婆の酒だといつわり、地獄の酒に毒を混ぜて朝比奈にすすめる。朝比奈は娑婆から持ってきたにしては出てくるのが早いと怪しみ、近くにいた赤鬼を捕まえて無理矢理酒を飲ませる。苦しみはじめる赤鬼。

 怒った朝比奈は牛頭・馬頭・その他の鬼たちを縛り上げ舌を抜いてしまう。十王は慌てて閻魔に報告。閻魔は地蔵菩薩に仲裁を頼み朝比奈と会うことにする。

 朝比奈はさらに暴れる。三途川の婆を呼び「お前はせっかく着せてある罪人の着物をはぎとっているな。その罪は重いぞ。業の秤にのせてみろ」と鬼たちに命じて罪の重さをはかる天秤にかけ、婆を剣の山に送ろうとする。朝比奈が恐くて言うことをきくしかない婆。

 閻魔は少し病気がよくなったからと地蔵を立会人にして朝比奈と対面する。朝比奈は「誰の許しで王をやってる」「絹の服などけしからん」「鬼共のフンドシは紺の木綿で十分。虎革は俺が土産にする」「みるめかぐはなの台が贅沢すぎる」などと難癖をつけ、言うことを聞くなら命はたすけると言う。

 閻魔はすべて言う通りにして、死者から奪い取った六文銭(三途川の渡し賃として死者に持たせるお金)を出してきて、ここに千両あまりございます。これを持ってお帰りくださいと頼む。

 朝比奈は、浄玻璃の鏡、閻魔の衣類と冠、虎革のフンドシ、鉄の棒(金棒)、業の秤など、地獄の道具をすっかり取り上げ、しまいには地蔵にも「今後地獄が驕るようならお前の錫杖と宝珠もとりあげるぞ」と言い放ち、千両箱をかついで娑婆に帰って行く。


 朝比奈のようなヒーローが地獄で壊した諸道具を直す話に『大磯地蔵咄』がありますが、そちらでは「朝比奈、弁慶、金時が」と言っているのに対し、この本には朝比奈しか出てきません。また文体がかなり違うので、直接の続編ではないような気がします。
asobe.hateblo.jp

メモ

  • 十六日:閻魔大王の縁日
  • 最中の月(もなかのつき):江戸時代に人気があった菓子。
    • 糯米(もちごめ)で作った二枚の皮の間に餡をはさんだもの。丸く白い形を十五夜の月に見立てて最中の月と呼ばれる。吉原の竹村伊勢大掾の店のものが有名だが、後に松屋忠次郎店でも売った。/『江戸語の辞典』より
    • 最中という言葉は仲秋(十五夜)が秋の最中だからという説のほかに、皮の間に餡を挟むことからという説がある。現在の最中(もなか)という言葉の語源だとされる。
    • この本では閻魔がどこからか取り寄せて地獄で食べているシーンがある。
  • 地獄の道具類
    • ぜうはりのかゞみ(浄玻璃の鏡):じょうはりのかがみ。死者の生前の行いを映す鏡。玻璃はガラスのこと。
    • ごふのはかり(業の秤):ごうのはかり。死者の罪の重さをはかる天秤。
    • 虎革のふんどし:鬼のふんどし。
    • てつのぼう(鉄の棒):鬼の金棒。
    • 閻魔の衣類と冠:閻魔の服は絹でできているが、べんべらと呼ばれる薄手の粗末なもの。それすら朝比奈は贅沢だと言ってとりあげた。冠には王と書かれているのが生意気だというので朝比奈に取り上げられてしまう。
    • 千両箱:死者が三途の川の渡し賃として持ってきた六文銭を貯めたもの。

 このほかに地獄の釜も重要アイテムだと思うが、この物語には出てこない。

巻末の広告(思いついたようにメモしてみる)

  • とらのとし新版目録/永寿堂・西村屋與八版
    • 写昔男・ 通風伊勢物語(むかしおとこをうつしてつうふういせものがたり)  上中下
    • 道楽世界・ 早出来(どうらくせかいにわかのたんぜう) 上中下
    • 敵討・梅と桜(かたきうちむめとさくら) 上中下
    • 楽和・ 富多数寄砂(たのしみはとんだすきさ) 上中下
    • 上手談義(ぜうずだんぎ) 袋入/通笑
    • 芸者五人娘(げいしやごにんむすめ) 上下
    • 豆男江戸見物(まめおとこえどけんぶつ) 袋入/通笑
    • 地獄砂汰金次第(ぢごくのさたもかねしだい) 上下/作者・可笑/画・清長
      • この本自体に奥付けはなく、いつの「とらのとし」かはこれだけではわかりにくいが、通笑や永寿堂の活動時期などから天明年間だとわかるのだろうか。
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地獄の道具を取り上げる朝比奈