@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

(金時)狸の土産(きんとき たぬきのいえずと)

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# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


きんとき たぬきのいえずと
(金時)狸の土産
発行年:1772年(安永元年)
作:不明
画:鳥居清経

登場人物

  • 坂田金時:金太郎さんの大人になってからの名前。化物の敵。
  • 黄石公(こうせきこう):夢のお告げ。
  • 金の茶釜:土中より出て羽生えて飛び去る。
  • ぶんぶく寺たぬき:年を経た狸、化物の先生。大茶釜に化ける。
  • ばけものたち:狸の弟子たち。
    • やくわんのたゆうあつゆ(やかんの太夫熱湯):金時と戦う。
    • ふたまた:猫又。金時を襲う。
    • きつね:おせんに化ける。
    • ひとつめ
  • お千(おせん):その正体はきつね。金時をまどわす。

物語

 坂田の金時が戦に疲れてまどろんでいると、夢に黄石公が現れて、東にかさものと呼ばれる松の大木があり、根元に名鉄があるので剣にすれば天下無双の一振りとなる、と教える。また巻き物を与え、この書を開き、手柄をなせと言う。

 黄石公の教えにしたがい東へ行くとかさものの松があったので、人足を集めて掘らせると金の茶釜が出てくる。茶釜に翼が生えて舞い上がる。また茶釜を掘った穴はどこまで続いているかわからない深い穴だったため、金時が自ら飛び込んで調べに行く。

 金時は穴を調べようと飛びこみ行くと、火山のふもとに出る。まんまんたる川があり、そのほとりに飛び越しの松という目印がある。金時は山の頂に家があるのを見て、きっと化物の住み処に違いない。自分も武者修行の身、ばけもの稽古と行こうとその建物を目指す。その建物は、かつてぶんぶく寺という寺だったが、今はころう(狐狼?)の住み処となっている。

 としをへた狸がぶんぶく寺の主で、化物の先生として多くの弟子も集まっている。やかんの太夫熱湯という者が茶釜の行方をたずね出そうとしている。どうやら茶釜がないと化物たちは力が出ない様子。

 金時は化物たちの中にとんで入り、茶釜の代わりにやかんをとっちめようと荒れに荒れる。ふたまた(猫又)は爪をといで襲いかかろうとするが、金時が天照大神宮の祓いで祓うとおそれわななく。狐はこざかしくこの場から逃げ出す。残る化物も…(このあたり汚れていて読めず。おそらく狐にしたがって逃げた)。

 狸は金時をうまく騙して帰す計画をする。「その昔、茶釜に毛を生やして金時をあざむいた術を皆にも見せよう。どうにかやかんを取り返したいものだ」

 金時は化物を追い散らし、(もとの場所に戻ろうと?)そこかしことたずね歩く。美しい社の前でお千という娘と出会い、色香に迷う。

 金時はお千に教えられた通りもときた道にもどろうとすると、高さ三丈(11m?!)余りの茶釜があったので、化物の仕業だろうと梯子をかけて中身を調べようとする。この茶釜には毛が生えている。狸が化けたものである。中には化物たちが沢山隠れている。

金時に茶釜を打たれて中にいた化物たちは残らず追い出される。今はかなわないと思った狸は金玉を広げて姿を隠す。お千の正体はきつねだが、金時に惚れ、いろいろに騙す。/惚れているのか、騙そうとしているのかよくわからないが、戦いの最中にお茶をすすめているので惚れたふりをして騙そうとしているという意味かもしれない。

 結局、金時にはかなわないと化物は降参する。金のちゃがまはおせんが隠していたが出てきてあやまる。狸の金の皮(略してキンチャク)、狸の腹の皮を張った狸の腹鼓を金時に差し出し、さらにおせん狐も嫁として差し出す。

 夢のお告げで見つけたものなので、茶釜は君へ奉る。金時は化物たちに担ぎ上げられ、茶釜は車に乗せて帰る。

 金時は本国に帰り、茶釜は神として祀られ(谷中の)笠森に納まる。千住の茶釜はこの分かれである。

メモ

  • 黄石公:中国秦代の隠者で、前漢張良に兵書を授けたという伝説がある。この物語でも金時が巻き物を授かっているが、巻き物は特別ストーリーには関係なく、張良のパロディーになっている。
  • 茶釜に毛が生える:狸が茶釜に化け寺などに売られるが、磨かれたり火にかけられたりして狸の正体を現すという話が全国の昔話にある。特に有名なのは館林の茂林寺の話。茶釜に毛が生えるというのは化けの皮がはがれるというような意味で使われる事が多いが、ここでは狸が茶釜に化けて人を驚かせた過去の栄光を言っているようだ。
  • 茶釜とやかんの関係:笠森おせんを参照せよ。
  • 笠森おせん:1763年(宝暦13年)ごろ、江戸の谷中笠森稲荷で茶屋の娘として評判になる。今でいう会いに行けるアイドルのような状態で、とんだ茶釜と言えばおせんのことだった。1770年(明和7年)ごろ、突然姿を消し、おせんの年老いた父親が茶屋を続けていたため「茶釜がやかん(はげ親父)に化けた」と大騒ぎになった。結婚したからだといわれている。この物語で狐が化ける「お千」は笠森おせんのことである(お仙という字をあてるのが一般的)。また茶釜を掘り出す話なのにやかんと戦ったりするのも笠森おせんの話から来ている。
    • わらべうたに「向こう横ちょのお稲荷さんへ、一銭あげて、ざっとおがんで "おせんの茶屋へ"」とあるのは笠森おせんの茶屋の事だという。ちなみに下の動画の一曲目がそれ。民謡なので各地で少しずつ違う歌詞や節回しでうたわれていると思いますが、これは葛飾区の出版物に載ってた楽譜を読んで覚えました。

www.youtube.com

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金時は金の茶釜を笠森に祀った。上にはしっかりやかんものっている。

笠森稲荷の場所