@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

化物尽(ばけものづくし)

https://honkoku.org/app/#/transcription/58C13F3372376C30ECFA766E7A6C1DDE/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。

ばけものづくし
化物尽
発行年:1809(文化六)
作・画:十偏舎一九(十返舎一九

 この本は後半に『信有奇怪会(たのみありばけもののまじわり)』という別の本が合本されているようです。両方とも作者は十返舎一九で見越し入道とお六の話ですが、『化物尽』のほうが13年もあとに発行されているようなので、ちょっとおかしなことになっていますね。

登場人物(前編・化物尽)

丹波のももんがぁ(ももんぐわぁ、ももんじぃ)
その妻の幽霊
その息子、もも太郎

三つ目入道
その娘、ろくろ首のお六

医者
五位鷺(ごいさぎ)

登場人物(後編・信有奇怪会)

三つ目入道
その娘、ろくろ首のお六
見越し入道
 その他化物たち

坂田金平(さかたのきんぴら)
奴・どて平

物語

前編:化物尽
 丹波山のももんがぁは同じ山に住む幽霊と夫婦になって子供をさずかるが、何の因果か玉のような人間の男の子が生まれてしまう。器量がよく五体満足では化物として通用しない。夫婦はたいそう悩み、やがてももんがぁは妻の幽霊と離縁する。この息子が疱瘡にかかり、あばた面になったことで桃のようだと言われるようになり、もも太郎と名付けられた。ある日もも太郎はかっぱのふりをして人を恐がらせようとするが、本物の河童に襲われて尻子玉を抜かれそうになったところを五位鷺に助けられる。

 ところで、三つ目入道にはろくろ首のお六という娘がいたが、ちょっと驚くとひきつけをおこして首が引っ込んでしまい、いつしかろくろ首なのに首が伸びなくなってしまった。これでは良い縁談もないと見越しは医者を呼んだ。医者は気を長くしていればいつか首も伸びるでしょうと、大江山に花見に行くようにすすめる。

 大江山の花見でもも太郎とお六が出合いたちまち恋に落ちる。医者と五位鷺はふたりを取り持つ相談をして、それぞれが「今夜あたりお相手が忍んでまいりますよ」と耳打ちした。そのため二人とも待ちくたびれて文字通りどこまでも首が伸びた。お六はろくろ首に戻り、もも太郎は首が伸びたことで見越し入道となった。

 ももんがぁは喜んで息子に家督をゆずろうと化け方を伝授する。すると国々から化物たちが集まってきて見越しの手下になった。

後編『信有奇怪会』
 後編は『信有奇怪会』という別のタイトルで国会図書館にある草双紙と同内容です。
 ばけもの仲間も最近はパッとしたこともなく、金平のような手合いにへこまされている。おまけにばけものの小息子・小娘たちが行方不明になる事件が多発している。三つ目入道の娘お六も姿が見えない。人間の子なら野山を探すところだが、化物の子なら町の中を探すのだと言って、化物たちは笛と太鼓を鳴らしながら探して歩く。

 金平はばけもの好きで、ばけものと出会いそうなところで待ち伏せしている。そこへお六が通りがかるが、金時を普通の人間だとっておどかそうとして、逆に捕まってしまう。三つ目入道はお六が金時に捕まっていると聞き、誰か救い出してほしいと呼びかける。以前からお六とつきあっている見越し入道が名乗りをあげる。

 見越しは茨木童子渡辺綱のおばに化けて腕を取り返した話を思いだし、長い首を折り曲げて懐に隠し、面をつけて金平のおばに化ける。しかし綱とは違い、金平にはおばはいない。金平はだまされたふりをして見越しを屋敷に招き入れる。見越しはろくろ首のお六を見つけるが、お六は金平に首を飴のようにのばされて、その首で庭の木に縛りつけられていた。

 お六を連れて逃げようにも奴のどて平が見張っているため近づけない。なんとしても逃げたいお六は縄を食いちぎる気持ちで自分の首を食いちぎって「やれ嬉しや」と見越しのもとへ駆け出すが、肝心の首がなかった。

 見越し入道はすごすごと逃げ帰る。三つ目入道はお六のことを聞いて悔しがり、自ら金平の館へ踏み込むが、金平は金棒を振り回し、三つ目入道も逃げ帰るしかなかった。それでは面目が立たないので、ミカン籠に紙を貼り、金平の首にみせかけて大層な車に乗せて引き回してみせた。それを見たばけもの仲間は大喜びしたが、雨が降ってきて嘘がばれてしまう。

 ばけものの親玉株である三つ目入道も見越し入道も歯が立たなかった金平にはどうあがいても勝てないと思った化物たちは箱根の先に逃げ去った。金平はその功績を認められ源頼光から褒美をもらう。ばけものはいなくなったがまだ鬼は残っているのでまとめて西の海へでもおっぱらってやると言って終わる。 #国会図書館所蔵の『化物尽』では、三つ目入道が張りぼての首を持って凱旋したあと数ページが欠けています。

メモ

  • 化物の頭は二人
    • 丹波のももんがぁ
    • 越後の三つ目入道
  • 言葉
    • 気は中橋(気がないという意味の洒落)
    • けつかる(しやがる、今も関西では言う)
  • 文化・風俗
    • 男色の表現

twitterに貼ろうと思って作った画像など

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しりとり式の文章
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しりとりのように言葉をつなげて書いてある、という解説。

 こういう、しりとり式の洒落はいろんな草双紙に出てきます。十返舎一九の文章はリズム感があって現代人が読んでも面白いと感じるんですが、今の感覚だと何が面白いのかよくわからないようなタイミングでこういうのが出てくる場合もあります。

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河童がもゝ太郎のおいど(尻)をせしめるシーン

 もゝ太郎は妖怪の息子なのに人間とまるで変わらないので、なんとかして妖怪になりたいわけです。そこで河童のふりをして川で遊んでいると、本物の河童が出てきて「俺の丁場(持ち場)に来て働くヤツはどこのヤツだ」と、見れば人間の子供(もゝ太郎)がいるわけです。そこで河童は喜んで「おいどをせしめる」んですが、尻子玉を抜くのではなく、なんでそういう言い方をしてるのかなと挿し絵を見ると、あー、うん、なるほど…(笑)

 河童が尻子玉を抜くという話は草双紙にもたびたび出てくる事なんですが、ここでは「尻子玉」という架空の何かを抜き取るのではなく、もゝ太郎はもっと実際にありそうなことをされてしまったようです。人間同士だと笑いごとじゃないんですが、妖怪は人間を脅かすのが仕事なので、河童はいい仕事をしたと言えるでしょう。もゝ太郎、早く立派な妖怪になるんだよ!

 江戸時代の本は、子供が読む妖怪の本でもすぐ吉原に行っちゃうし、妖怪同士の抗争で、捕虜になって衆道(男色)の相手をさせられた、みたいなことが書いてあるのも見た事があります。