@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

ブログ筆者の本

 紙の本ではなくて、Kindleキンドル)用の電子書籍です。キンドルは、スマートフォンやパソコン(Windows | MacOS)にインストールできる電子書籍リーダーです。キンドル専用端末はなくても読めます。

 どれもくずし字で書かれた古典作品を翻刻して、現代語訳をつけたりしたものです。挿し絵がある場合は絵に着色なんかもして見やすくしてあります。楽しみで読むために作ったものなので、必ずしも直訳になってないかもしれませんが、そこらへんは御愛嬌でお許しくださいませ。

 だいたい300〜500円くらいの値段設定になっています。キンドルUnlimitedにも対応しています。

 ずっと手元に置きたい場合や、1冊だけでいい場合は買い取るのがお得です。この場合はキンドルのサービスが続くかぎり手元に残ります。

 4冊以上見たい、一度見たら気が済む、という場合は1ヶ月だけUnlimited会員になるとお得です(会費は1ヶ月980円だったと思います)。会員をやめると見られなくなっちゃいますが、再度入会すればまた見られるようになります。読み放題に対応した漫画なども読めますよ。

最新刊

▲化物昼寝鼾/箱根の先系の物語で、人に恐がられなくなった化物がどうにかして人を化かして恐がられたいと人間の芸者さんに流行を習います。当時の流行を詰め込んだみたいな文章になっていて、そのまま訳すと訳してあるのにさっぱりわからない文章になってしまうので、現代語訳は今時の流行り言葉を取り入れて訳してみました。


既刊

▲化物七段目/見越し入道の息子ののっぺら入道が化けることでは世間にウケないのに悩み、相州切通から化地蔵をまねいて御開帳を企画します。

▲化物箱根の先/野暮と化物箱根の先と言われる時代、江戸の人たちは子供でも化物を恐がらなくなりました。このままではいけないと、化物の総座頭・見越し入道が仲間を集めて化ける研究をはじめます。

▲妖怪着到帳/黒日(暦の上の縁起の悪い日)になると、化物たちが集まってきて宴会を始めますが、どんなに恐ろしい化物が集まっても、結局は朝比奈がぜんぶやっつけてくれる、というお話。どちらかというと妖怪図鑑みたいな本です。

▲飛た間違矢口噂/これは化物の話ではなくて、ある夫婦が嵐の夜に雷のショックで性格が入れ替わっちゃう話です。

▲満次郎漂流記:ジョン万次郎の物語/これも化物の話ではなくてジョン万次郎のドキュメンタリーみたいなやつです。嵐で無人島に流れ着き、アメリカの捕鯨船に救われてハワイらしき島に住むようになり、なんとか日本にもどりたいと苦労します。草双紙ではないんですけど挿し絵も少し入ってます。もとはくずし字で書かれた古文なんですが、この本には現代語訳だけ収録したと思います(自分で作った本なのによくおぼえてなくてごめんなさい)。

備前加茂化生狸由来記/備前加茂に魔法様と呼ばれる狸をまつった神社があるんですが、その由来記です。もともと唐の狸だったようですが、神国日本にあこがれて海を渡り、メス狸と結ばれ、人から犬をけしかけられたりするうちに一度は人を害する物になってしまうんですが、最終的には人の暮らしを守る神になるという話。これは文字だけです。

▲勝五郎再生前生話/勝五郎は幕末から明治初期にかけて実在した人で、前世の記憶があったとされています。平田篤胤の弟子(?)で、篤胤本人が勝五郎から聞き書きしたものは岩波文庫にあるんですが、このバージョンは冠山(池田定常)というお殿様が勝五郎の祖母から聞き書きしたものです。文字だけ(しかも横書きかもしれないです…縦書きにしてアップロードしなおしても反映されなかったので><)。

▲現代語訳:羊太夫栄枯記/群馬の伝説に、羊太夫という人が奈良の都まで馬に乗って日参していたというのがあるんですが、その羊太夫の家がどう栄えて、どう滅びていったかの壮大な物語です。これは文字だけ。しかも現代語訳のみ。

▲於六櫛基礎仇討/これは最初の頃に作ってみたもので、現代語訳はなくて古文だけです。木曾の名物でお六櫛という、櫛(くし)があるんですが、それを作ったお六という女性の話です。わたしも昔作ったので細かい筋を忘れてるんですけど、夫を守るために拷問されたりして、かなり壮絶な話だったと思います。オリジナルには挿し絵もあったんですが、所蔵してる図書館に使用許可をとるのがだるいなあと思い、(だって、あまり売れそうもないですし…汗)文字だけ収録しました。


 於六櫛以外はどの本も現代語訳をつけたと思います。最初の頃に作った本(お六櫛とか勝五郎とか)は横書きかもしれなくて、あまり体裁がよくないと思います。全部キンドル用の電子書籍なので注意してください。Amazonで購入して(もしくはUnlimited会員になって)、キンドル Kindle で読みます。

 キンドル自体はスマホとパソコンに無料でインストールできます。特別な機械は必要ありません。初めてだと買い方がよくわかんないかもしれないんですが、わからないことはAmazonに聞いてください、わたしもよくわからないです(真っ青)

分福丹頂鶴(ぶんぶくたんちょうづる)- 分福茶釜

 久しぶりにKindle用に翻刻本を出しました。今回は古文編は原典をそのまま現在の文字に置き換えており、句読点や漢字を補いませんでした。文章がどこで切れるのか、平仮名ばかりの文章を漢字で書いたらどうなるのかなど、パズルのように考えながら読んでみてください。後半に現代語訳もつけてあるので、答え合わせになると思います。買い切り300円。Kindle Unlimited会員なら追加料金なしで 0円です。


https://drive.google.com/file/d/1EWDHui1_LbJ4mVMclP2bltYhxPRxIhQ3/view?usp=sharing
 「古文編」のみ↑ここで無料で公開しています。現代語訳がいらない方はこちらで十分楽しめると思われます。なんという大盤振る舞い。いや、みんなで翻刻コラボの時も古文編は無料なのでいつも通りかな(笑)ちょっと解像度高めで読み込みに時間がかかるかもしれないですが、気長に待ってみてください。ダウンロードもできます。


ぶんぶくたんちやうづる
分福丹頂鶴
# 単に分福茶釜(ふんふくちやかま)というタイトルで所蔵している図書館もあるようです。
発行年:1758年(宝暦八年)
作:不明
画:鳥居清満
版元:鱗形屋

所蔵:国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/pid/8929955/1/1

登場人物

  • かまや(釜屋):守鶴に金四両で釜を売るが受け取った金が木の葉になってしまい怒っている。着物に「小」の印。
  • しゆくわく(守鶴):しゅかく。上野国館林茂林寺の納所坊主(雑用をする位の低い僧侶)。実は百歳の古狸だが、茂林寺の住職はそのことを知っていて寺に置いている。着物に「鶴」の印。
  • ぢうそう(住僧):じゅうそう。ここでは茂林寺の住職のこと。着物に「尚」の印(和尚の尚)。
  • 小僧たち:守鶴が尻尾を出して昼寝しているのを見て驚く。
  • きね蔵:きねぞう。なぜか名前が出てくるのにチョイ役で。茂林寺の沼に現れた鶴を見て「この前まで寺にいた納所坊主の生まれ変わりだ」と発言するだけ。

# ほかにも着物に印のある登場人物が何人が出てきますが、特に役割もないモブばかりです。

物語

(上巻)
 茂林寺の納所坊主(なっしょぼうず)である守鶴は四両で茶釜をあつらえる。しかし払ったお金がすべて木の葉に変わってしまったので釜屋が怒って怒鳴り込んでくる。守鶴は「今は持ち合わせがないが、四五日中には八両にして払う」と約束。釜屋はすごい剣幕で「この痴れ者め(大馬鹿野郎が!)」と言いながら帰る。そんなお金があるとは思えないのでおそらく泣き寝入りしたことだろう。釜屋らしき男はこのあとも出てきて守鶴からお茶を振る舞われたりしている。

 茂林寺の和尚(住僧)が守鶴の茶釜で茶を煎じると、途中で水を注ぎ足さなくても四五日の間ぶんぶくぶんぶくと煮えて尽きることがなかった。お茶を呼ばれた客人たちはみな大喜び。

 守鶴は六十歳くらいで、たいそう字がうまかった。人々に好まれて「福」という文字を書いた。この文字を書いてもらった人はみな幸運をつかむというので、福を分けるという意味で「ぶんぶく」と呼ばれた。

 ある日、和尚が守鶴に用事があるというので小僧たちに呼びに行かせるが、小僧が部屋を覗くと百歳も生きただろう古狸がいびきをかいて寝ていた。驚いた小僧たちは駆け戻って報告するが、和尚は最初から知っていて、そっとしておきなさいと言う。

 守鶴は正体を見られた事を察したのか、年を取りすぎたことを理由にしきりに暇乞いするようになる。和尚は「お前がいなければこの寺はもたないよ」と引き止める。
(下巻)
 和尚はなんとか引き止めようとするが、守鶴の決心が固いので折れる。寺を去る前に、守鶴は筆をとって「終亦始」と書き残す(上巻が終わり、下巻が始まったという洒落でもある)。

 守鶴は寺を去る名残に昔の出来事を目前にお見せしましょうと人を呼び集め、狸の姿を現して、八嶋(屋島)の合戦の様子などを化けて見せる。

 また和尚が仏済世の様子を見たいと言うと、霊鷲山の説法の様子に化け、双林の入滅の様子にも化けた。それを見た人たちは非常にありがたい気持ちになり、自然と仏の心を理解した。

 すると何もかも消えてもとの茂林寺にもどり、守鶴も姿を消してどこへ行ったかわからない。

 それからしばらくすると、茂林寺の境内にある多々良沼に鶴が子育てに来るようになる。鶴の雛が巣を出て歩き回るようになると、親鶴は雛を連れて茂林寺の本尊に礼拝するようになる。それを見た人たちは「この前まで寺にいた納所坊主の生まれ変わりに違いない」とうわさしあうのだった。

メモ

 内容にツッコミ所が多い。地誌ではないので情報がテキトーなのかもしれない。

  • 茂林寺上野国立ばやし(館林)ほりかい村にあると書かれているが、実際には掘工村(ほりくむら、現在の掘工町)にある。かつて「ほりかい」と呼ばれていた事もあるのだろうか?
  • 茂林寺曹洞宗の禅寺(だと作中にも書いてある)なのに、不思議な茶釜を見て「こうぼう様の御利生茶釜じゃ」と口走る客人がいる。弘法様だとすれば真言宗の開祖。
  • 茂林寺の境内に「たたら沼」があると書かれているが、多々良沼茂林寺から6kmほど離れた所にあり、離れた場所に寺の領地があった可能性は否定できないけれど、茂林寺のすぐ近くに茂林寺沼という別の沼があるのでそっちの事かもしれない。
  • 茂林寺に飛来した親子の鶴を見ている村人たちの上州訛りに謎の語尾がついて面白い事になっている。「〜だんべえ」は正しく上州訛りだが「〜だんべえもさ」は別の土地の訛りが混ざってるんじゃないだろうか?
  • 土地の者らしき「ぬくたて(ふくたて?)村のきね蔵」が出てくるが、ぬくたて村にしても、ふくたて村にしても、上野国にそういう村はなさそう?(あったら教えてください)

 なおこの話に出てくる守鶴という僧侶は茂林寺の伝説に本当に出てくる人物で、この本の創作というわけではない。守鶴が使ったとされる茶釜も茂林寺に残っている。

 ブログ筆者は守鶴の茶釜を最低でも2回(もしかすると3回)見ているはずだが、なぜかほとんど記憶に残っていない。見に行った記憶はしっかりあるのに茶釜そのものは思い出せないという謎の体験をしている。最初は本当に幼児の頃、親に連れられて行った。ガラスのケースに入れられた黄金の茶釜は鮮明に覚えているが、どうもそれではないらしい。2度目はたぶん小学校の遠足で行ったような気がするがぜんぜん覚えていない。3度目は大人になってから、茶釜が見たくて行ったのによく覚えていない。ここまで来ると逆に超常現象なのではないかとすら思うが、おそらく特別な事もない単なる古い茶釜で印象に残りにくいのだと思う。特別なのは守鶴という僧侶のほうで、茶釜はごく普通の茶釜なので。

守鶴が四両で買った釜で茶を煎じる和尚。釜からお湯がぶんぶくぶんぶくとあふれ出す。
アイキャッチ用丹頂鶴

金太郎(きんたろう)

実況風動画
www.youtube.com
音読しながら翻刻して、おおざっぱに意味の説明をしたりしてます。1時間くらいの動画です。気長にどうぞ。

発行年:不明(江戸時代後期)
作:不明
画:不明(歌川国芳だと国会図書館のデータにはある)
版元:不明

所蔵:国会図書館デジタルコレクション
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/2532483/1/1

国書データベース
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100322625/
(ビューワーが違うだけで中身は国会図書館所蔵の資料です)

登場人物

快童丸(かいどうまる):金太郎のこと。後の坂田金時
その母
山の動物たち:サル、ウサギ、クマ、イノシシ等
木の葉天狗
らいこう(頼光):源頼光

物語

 昔話の金太郎。金太郎は快童丸と呼ばれている。父親はなく、母親は神とまじわり快童丸を産み、思うところあって山奥で暮らしている。快童丸は産まれた時から歯が生えており、体が大きく、怪力だった。まわりに人がいないので山の動物たちや木の葉天狗を相手に遊んで育つ。ある時、源頼光が快童丸を見て家来に所望。母親は喜び、忠義を尽くすよう教訓するとどこへともなく姿を消してしまう。頼光の家来となった快童丸は忠義と友愛を尽くして後に名を残す。

翻刻:金太郎

 動画の中で作ったものです。

コマ3

むかし〳〵みなさまおなじみの
らいくわう【頼光】の四てんわうの
一人ふるつはものゝかしら
ぶんさかたのきんときは
もといづのくにあし
がら山のさんなり【産なり】
ちゝもなくはゝは
神(しん)とまじはり
くはいたいし【懐胎し】十三月
にしてうまれつゝ
うまれいでたる
ときはをせうし
かたちおほひにして
せいちやうにしたがひ
ちからあくまでつよく

快童丸(くはひどうまる)

お子
さま
がた


太郎

いひ
給ふ

コマ4

つゞき 三四才のころ七八才の
かたちなりはゝはやま
おくをすみかとなして
こゝろにおもふこと
あり

人に
まじはらず
ゆゑにくわい
どうまるは
ひゞにとも
とするは
しか
さる
くまや
うさぎなど
あそびあいてと
したりける
あるとき金
太郎はおの
がちから
をため
さんとて
かたはらの
大ばんじやくを【大盤石を】
ひきおこしひと
こゑやつとかくると
ひとしくりやうてに
さしあげてなげいだせば
ゐあはせたるさるうさぎ
きもをひやししたがひける
〽ゑいや
うんとな
なんとどうだ
    〳〵

さるうさぎ
〽イヤハヤおそれ
いりました
〳〵〳〵

コマ5

金太郎いろ〳〵の
あそびをなしける
さるはきてんもの
にてこまをまはし
あいてをする
さるはあてごまを
するにとかく
まけてまけばら
をたちはをむき
いだしかほを
まつかにして
きやつ〳〵と
 ないてゐたり
      ける

金〽おそれ
たろう
おれがこまは
なんと
つよか
  ろう
そら
 どう
  だ

さる〽こんどは
しめたぞ

ほい
しめ
られ

さるとは
   〳〵

コマ6

けだものゝうち
にもくまはもう
ぢうゆゑひと
たびは金太郎
にはむかひ
たるが
なか〳〵ちから
およばずさん〴〵に
なげつけられる
これより金
太郎は
くまにのりて
みね〳〵たに〳〵を
かけあるかせばじゆつを【馬術を】
こゝろみるまたは
をり〳〵わが心に
そむくことあれば
まさかりを
もつてあたま
をさん〴〵に
うてどくま
はあやまり
いたりける

〽なんとつよからう
おれがこれから
てまへにのるからよく
かけあるけあるかぬと
またまさかりだぞ

コマ7

ある
とき
しかゞ
くわい
どう丸
のおたのに【=お楽しみに】
しておき
たるさつま
いもを
ひとつして
やりけるにあまり
うまくついみんな
くいければ金太郎
おゝきにはらを
たちしかをよびよせ
おほひにしかりあし
にていろ〳〵いじめる

きん
〽おれがたのしみに
とつておいたもの
をせしめてなに
くはぬかほをして
にくいやつだこんど
ぬすむとぶちころし
   てしまうぞや
しか
〽はい〳〵ごめんくだ
さいましあんまり
うまさについみんな
たべましたさて〳〵
さつまいも
ぐらいに
こうふまれ
てはつまらん
とこまつてゐる

〽もう
たいがい
   に
ゆるし
   て
やん
  な

コマ8

またあるとき
やまへあそびに
ゆきたるに
大ぼくのすぎ
にこのはてんぐ
いたりしを
木をゆす
ぶりてみな
おとしける
にてんぐも
しよせんかな
はぬとおもひ
ければあらそはず
金太郎にしたがび
あひてをする
〽どつこい〳〵
どつちらも
まけるな
かつたもの
にはほふびに
このはせん
   べいを
やりま
  すぞ
〽どつ
  こい
   〳〵
はな
 が
じやま
  に
なつて
とりに
  くい
はな
はだ
こま
るわけ
  だ

コマ9

ある日山あそび
してゐたりし
にとしふる
いのしゝいつ
さんにとび
きたり金
太郎を
きばにかけんとなす
をくはいどう
    まるは
ひらりと
みを
かはし
あばら
をどう

けた

しかば
さす
がの
しゝも
よはる
ところ

まさ
かり
にて
うち
ころ

けり

コマ10

このをりからみなもとのらいくはう
あそん【朝臣】四天わうのめん〳〵をめし
ぐしにんこく【任国】へにげかうみぎりこの
ありさまをみたまひぼんにん【凡人】
ならぬを
しり
給ひ
はゝを
よび
いだし
しよもうありければはゝは
よろこびたねんのしんぐはん【心願】
かなひしとおんれいまうし
くはいどうまるを
きやうくんし【教訓し】ちうぎ【忠義】
をつくしつかへよと
いひふくめもはや
うきよにのぞみなし
らいくはうあそん
を見
おくり
たて



やままた
山にこがくれ
てゆくへも
しらずなり
にけり
〽もはや
たい
めん
これか
ぎり
ずいぶん
たつ
しやで
さらば
〳〵

〽はゝびと
いづくへゆき
給ふいま
いちど
おん
かほ
見せ

たま

のふ
 〳〵

コマ11

くわいどう
まるはさかたのきんときと
なのりらいくはうの四天わう
となりちうぎをつくし
ゆうあいを【友愛を】あらはしまつせ【末世】
にそのなをつたへけるこそ
   めてたし〳〵
      〳〵〳〵
忠孝(ちうこう)の道(みち)をたがへず
  あゆびなばたからの山は
    目(め)のまへにこそ

猛獣のクマは最初は金太郎を襲うが、金太郎はまさかりでなぐりつけて手なづける。横で応援している母。
アイキャッチ用画像

児噺舌切雀(おさなばなししたきりすずめ)

翻刻実況風動画
www.youtube.com
1時間ちょっとの動画です。長いのでのんびり見てください。
 
おさなばなししたきりすずめ
児噺舌切雀
発行年:不明(江戸時代後期)
作:不明
画:不明
版元:西村屋
 
都立中央図書館所蔵
https://kokusho.nijl.ac.jp/biblio/100093645/

登場人物

弥五太夫:子供たちがいじめている雀を買い取って助けてやる良い爺さん
新八(しん八):弥五太夫のお供をする下人。
お梅:弥五太夫の娘
倹飩婆(けんどんばばあ):弥五太夫の妻、お梅の母。よくばり婆さん。
舌切雀:婆さんの洗濯のりをなめて舌を切られる
雀の親
雀の芸者衆

物語

 昔話の舌切り雀そのものだが、倹飩婆(よくばり婆さん)が真似をして雀のお宿に行く下りが省略されている。

 子供たちが雀をいじめ殺そうとしているので、良い爺さんの弥五太夫は子供たちから雀を買い取って助ける。雀を家に連れ帰ると、娘のお梅がたいそう喜んだ。ある日、雀が倹飩婆が煮た洗濯のりをなめてしまったので、怒った婆が雀の舌を切ってしまう。
 弥五太夫とお梅は飛び去った雀を追って雀の隠れ里へ。雀たちに歓迎され、美味しい料理と芸者衆の芸でもてなされる。芸者衆は瀬川菊之丞女形役者)のまねをして踊る。
 軽いつづらと重いつづらを土産にもらい、帰宅する弥五太夫とお梅。家で待っていた倹飩婆は重いつづらを選び、弥五太夫は軽いつづらを選んで開けてみると、弥五太夫のつづらからは宝物ばかりがでてきて、倹飩婆のつづらからは化物ばかり出てきた。

翻刻:児噺(おさなはなし)舌切雀(したきりすゞめ)全

 以下の翻刻は動画の中で作ったものを少しだけ直したものです。

コマ4

中むかし
のこと な
    る
    にさる
    いなかに
ものゝ
弥五 太夫といふもの
あり心正じきにしてじひ
ふかくあるときよそより
かへるみちにこどもあまた
あつまりすゝめを一はとらへうち
ころさんとする弥五太夫こどもに
ぜにをとらせすゞめをもらいてわが
やにかへる

しん八ともする
 すたちてごさります

こともそのすゞめをおれにうれ
 みんなにぜにをやらふぞ

しいさまおれにも
せにを
下さい

コマ5

弥五太夫すゝめをかいとり
うちをもとり
むすめ
お梅
によろこばする
お梅すゞめを
てうあいする

むすめうれしがる

けんとん【倹飩】
ばゝア
はら
たてる
【婆の台詞】
おやつかな
なんにすべい
つんにかさつ
     しやい

【しん八の台詞】
百でかいました

【弥五太夫の台詞】
コレむすめちいか【ぢいが】
よいみやけ
やろう

はゝア

せんたく
するとてのり
をにてさましおきけるかの
すゞめかこよりいでのりをすこし
なめけれはけんとんはゝア大きにはら
をたちなさけなくもすゞめ
のしたを切てはなしける

【婆の台詞】
につ
くい


めた
いそが
しい

せつかく
にたのりを
みんななめ
おつたはら
かたちヤ
【お梅の台詞】
〽かゝさまむ
こひ
こと



ますな

コマ6

弥五太夫すゞめをふひんにおもひ
おむめ【お梅】がてを
ひき
たつねに
出けり

〽おやすゝめ【親雀】
弥五太夫が こゝろをかんじすげの
まつはらまでむかひに出れいを
申てともないゆき大ふん
ちそう
する

下人新八

【お梅の台詞】
したきれすゞめちよつ〳〵〳〵

【しん八の台詞】
たんな【旦那】
むかふが
すゝめどのゝ
うちかなさて
〳〵けつかふな
もんかまへかな
おむめさますゞめ
どのにあいますそ
大ぶんくたびれた

【弥五太夫の台詞】
しらかべつくりのすゞめどのゝところはこれかな
きさまは
けらいしゆか

すゞめの
かくれさと
もんかまへ

【舌切雀の父親の台詞】
弥五太夫
さまよふこそ
おいてな
されまし
たこの
ほうの
むす
めご

いかひ
よろこ
ひて
こさります

【お梅の台詞】
はやく
すゝめ



あいたう
こさる

コマ7

【弥五太夫の台詞】
こなたのしたはなをり
ましたか
これはきくの
しやうかした【菊之丞がした】
やりお
とり
じやの【鎗踊りじゃの?】

むすめ
おもしろ
がる
【お梅の台詞】
しん八
おもしろ
いの
チト
ほめやれ

【しん八の台詞】
イヨ〳〵
おらかせがは
さまめ
【雀の台詞】
おぢいさま
こちそうに おど りを
申つけ
まし

おむめさま
よふごら
んあそ
ばし
ませ

弥五太夫へちそうに
すゞめのげいしやども
せがはかおとりし
しよさことを
する

チヽ
てん〳〵
チリ〳〵つて

〽さまにあふてのあさ
がへりけしきたのしむ
おとこはだてに又と
あるあい一だいやつ
こしかしこよひは
かりねのまくら
こいの中のてう
おさきで
ふれ〳〵
おともて
ふれ〳〵

すゝめでせ
がつてんだ
よいやさのサ
ようをいと

コマ8

すゞめの
けらいとも
すこしの
うちも弥五
太夫になしみて
なごりおしがり
みな〳〵いとま
こひをする

弥五太夫かりそめに
すゞめのもとへたつね
きたりてゆる〳〵ちそうにあい
みやけにつゝらをもらいてかへる
ばゝさまへもみやけせんとて
おもきつゞらをしん八にしよ
わせてかへしける

【弥五八の台詞】
〽サテ〳〵ちよつときて
ひさしくとうりうしまして
いかひそうた【?】になりましたゑんも
あらばそのうちあいましやう
さらば〳〵

【しん八の台詞】
〽だんな
わたしは
つゞら
は大
ぶん

もふ
ござ
ります

すゝめな
こりのところ

【下人その2の台詞】
すゝめどのさらば〳〵
このつゝらは 大ぶん
かるい
そ〳〵

【お梅の台詞】
かゝさまがまつて
ござろうはやくまいり
ませう

コマ9

じゝはうちへかへりすゞめに
もらいしかるきつゞらを
あけて見れば
きん〴〵たく
さんにいろ〳〵
けつこうなる
ものばかり
いでゝ一しやう
ゑいぐはに
くらし
ける

【弥五太夫の台詞】
サテ〳〵
おひ
たゝしい
たから

めで
たい
 〳〵

〽けんどんばゝは
どふよく
なれば
おもき
つゞらのふた
をあけて
みれはいろ〳〵
のはけ
ものいでゝ
ばゝアにくひつく

【婆の台詞】
ノフ
 こわや〳〵

【化物たちの鳴き声?】
■■■
ぐは〳〵



雀の隠れ里でもてなされる場面
アイキャッチ用画像

花咲爺誉魁(はなさかぢゝほまれのさきがけ)

翻刻実況風の動画

その1
youtu.be

その2
youtu.be

その3
youtu.be

その4
youtu.be

 いつもの「みんなで翻刻」ではなくて、わたしが(ブログ筆者 chinjuh)が勝手にみつけて読み始めたものです。意味を軽く説明しながら音読して、文字おこしまでその場でやってます。1動画20〜30分くらいあって、全部見ると2時間くらいかかります。何かの片手間にのんびりごらん下さい。


はなさきぢゝほまれのさきがけ、はなさきじじほまれのさきがけ
花咲爺誉魁
発行年:不明(幕末、文政〜嘉永年間?)
作:楽亭西馬
画:一勇斎国芳歌川国芳
国会図書館デジタルコレクション所蔵
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/10301481/1/1

 序文に「西馬」の署名があるので、おそらく本文も楽亭西馬の作だと思われます。出版年のヒントになりそうな情報としては

とのことです。巻末に同時期に出た草双紙の広告があるので、ひとつひとつ見ていくとどれかに出版年が書いてあるかもしれませんが、現在わかっているのはこのくらいです。

登場人物

白(しろ):庄兵衛の犬
正直庄兵衛:正直じいさん
よく八:庄兵衛の隣に住む欲深じじい
大臣の殿(だいじんのとの):庄兵衛の話を聞き、正直の褒美を与える

物語

 昔話の「花咲じじい」の話そのもの。

 正直者の庄兵衛は日頃かわいがっている犬の白(しろ)に袖を引かれて山へ行き、白が転んだところを掘ってみると土中から黄金が出た。それを見ていた隣の欲深じじい・よく八は、庄兵衛から犬を借りて山へ行くが、犬が一向に転ばない。無理やり転ばして、その場所を掘ると、犬の糞や蛇やムカデなどが出てくる。怒ったよく八は犬を打ち殺して埋めて帰る。

 それを聞いた庄兵衛が山へ行くと、白が埋められたところに大きなクスノキが生えていた。その木を挽き臼を作っていろんなものを挽いてみると、粉にまじって小判の小粒が出てきた。そこへ よく八が現れて、無理やり挽き臼を借りて行くが、よく八が回すと犬の糞やそのほかの汚らわしいものばかり出てくるので、怒って挽き臼を囲炉裏で燃してしまった。

 庄兵衛が臼を返してほしいと言いに行くと、臼はすでに灰になっている。庄兵衛は灰をざるにいれて持ち帰り、街道の枯れ木にのぼってまいてみると、不思議なことに花が咲き始める。そこへ大臣(殿様)の行列が通り、殿様はいたく感心して庄兵衛に沢山の褒美をとらせる。

 それを聞いたよく八は、囲炉裏に残っていた灰をとって街道で殿様の行列を待つ。ここぞとばかり灰をまきはじめるが花は咲かず、殿様の行列は灰を被ってしまう。怒った家来たちよく八をひきずり下ろして刀で斬り殺してしまう。

メモ

くすの木は石になるもの
 「石となる楠も二葉のときは摘まるべし」という諺(ことわざ)によるもの。

いわゆる「ここ掘れワンワン」のシーン
序文の挿し絵

翻刻

 以下は動画の中で作ったものです。打ち間違いを少し直しました。()内はふりがなで、【】内は注釈です。コマ+数字は国会図書館デジタルコレクションに対応してます。
https://dl.ndl.go.jp/ja/pid/10301481/1/1

コマ4

花咲爺(はなさきぢゝ)誉魁(ほまれのさきがけ)

一勇斎
  国芳

積善(せきぜん)の家(いへ)には福(ふく)来(きた)り積悪(せきあく)の門(かど)には禍(わざはひ)来る
さればむかし噺(はなし)のかち〳〵山 桃太郎(もゝたらう)の
宝物(たからもの)舌切雀(したきりすゞめ)の古(ふる)つゞら
みな一時(いちじ)の戯(たはむれ)なれども
おのづから勧懲(かんちやう)の道(みち)にして
子供衆(こどもしゆ)を教(みちびく)一助(いちぢよ)なり此(この)草(さう)
紙(し)も夫(それ)に同じく枯木(かれき)に再(ふたゝ)び
花咲爺(はなさきぢゝ)正直(せうじき)の頭(かうべ)に神(かみ)のやどり木(ぎ)なれば
とかく善道(よきみち)にいり給へかし
  其みちをまたもしたひて
   ふる事は犬の足あと梅の赤本 西馬

コマ5

むかし
ある所に
正ぢき
庄兵衛といふりちぎ
いつへんのおやぢあり
あるとき白き小いぬを
かひてあさゆふしよく
もつをあたへかはゆがる
ことわが子のごとく
そこらへいでゝ
もとりおそければ
たづねにいでければ
此白いぬも庄兵へを
したひおやのごとく
あまへけるいつもの
ごとく庄兵へ山へかせぎ
に行に白いぬも

つき
きたり
しが
ふと
いぬ
ころ
びて
おき
あがり
庄兵へがすそを

くはへて
かの所へ
つれ行ゆへ
庄兵へ心
つきて
くはをもて
その所をうがつに
こがねあまたいで
たり此やうすをとなり
のよく八といふもの見てゐたりける

コマ6

かのよく八と
いふものは心
がけあしきもの
にてつね〴〵ひだうの
事のみしてくらしけるが
きのふ山にて庄兵へが白いぬ
のかげにておほくのかねを
ゑたるを見ておのれがひだう
の心ざしはしらずかのいぬを
かりてわれもたからをえんと
となりへ行けるに白いぬ
よく八とつれだち行を
さらによろこぶていなく
行けるにそここゝあるけ
どもいつかうころぶけしき
もなしよく八きをいらちて
むりにいぬをころばしその
あとをくわもてほりうがてば
へびむかでのたぐひいぬのくそ
おびたゝしくいでゝかねはさらに
なしひごろたんきじやけんのよく八

大き
にいかりて
くわをもつて
かの白いぬを
うちころし
     ける

〽うぬ
ふてへ
ちく
せう
めだ

コマ7

かくて
よく八は白いぬを
うちころして
いゑにかへり庄兵へ
につけていふやう
かよう〳〵のしまつ
ゆゑにくさも
にくしにんげんを
ばかにするちくせう
はらいせにうちころし
て山にうづめたりと
きひて庄兵へなげく
事大かたならず
さらばそのうづめ
たる所をしらせ給へと
よく八をともなひ山に
行てみればふしきや
白いぬをうめたる所に
大きなるくすの木はへ
いでたり庄兵へは

なげきのあまり
さらば此木こそかのいぬ
がかたみなりとてくすの木を
ひききりかえりて引うす
をこしらえけり

〽やれ〳〵かはひや此下に
しろめがうづめて
       ござ
         る

〽にくい
  ちく
   しやう
    めだ
きさま
 も
あきら
 めて

しま
はつ
せへ

コマ8

庄兵へはかのくすの木を
かたみなりとて引きり
かへりてこれにてひきうす
をつくりけるにもとより
くすの木はいしに
なるものなれば
かたくいしうす
のことくにでき
ける庄兵へは此
うすをもて
さま〴〵の
ものをひくに
そのひい
たるこの
うちに【挽いたる粉のうちに】
こばん
小つぶの
まじりて
いつるなれは
    さても

ふしきなる事なりこれもかの
白いぬのわれにふくをあたふる
ものなりとよろこひけるに
つけてもたゞふひんいやまし
ける此おりからとなりの
よく八きたりこのありさ
をみてさても
きみやうの
事なり
こゝろみに
われにも
すこし
かしたまへと
そのうす
をかりて
かえりぬ

コマ10

庄兵へはだいじに
おもふうすなれども
よく八がひごろの
きしつゆゑかさずば
なにかにあたをせんと
それをおそれてかの
うすをかしてやりしに
さらにもどさぬゆゑ
とりに来りうすを
あきたらばかへし
くれよといふに
よく八まなこを
からしいうやう
さて〳〵にくきいぬ
めがしわざかな
いちどならず
にどまでわれに
かゝるけがれたるものを
あたへたりそのうすも

たゞは
かへす
まじと
まき
わりを
とりいだし
いろりの
はたにて
こと〴〵く
うちわり
火のなかへ
いれて

もし
たり
ける

〽やれ〳〵
なさけない
事をさつ
しやる

コマ11

正じき庄兵へはせんかた
なければかのうすを
もしたるはいをとり
かへりておもふやう
かくまで
しやうある

いぬ
のぞん
ねん
なれば
せめて此はいをもて
かれがはなみをさかせて

やらんとそれより
はいをざるにいれて
かゝえかいだうへいでゝ
かれ木のうへに
あがり
ゐたり
ける

かゝるおりしも
たいしんのおとをりにてさきかちの
ものいふやうそれにおるはなにもの
なりとあるにこれは日本一のはなさき
ぢゝなりいふにしからばごぜんにてはなを
さかせべしと仰ける

コマ12

正ぢき
庄兵へは
おふせにした
がひはいを
つかんでかれ
木にまき
けるにふしき
なるかな

かゝる
かれ木に
たちまち
はなひらき
にほひかう
ばしくみごと
なる事いはんかた
なしたいしんの
とのはなはだごかんありて
あまたのごほうびを下され
そのうへながくおふち【お扶持】を下されける

〽そのほう
正ぢきなる
ものゆゑ
てんより
さづける
所なり
いぎなく
とりおさめ

〽いかばかり
ぢゝが
身に
とり
ありがたい
しあはせ
でござり
ます

コマ13

よく八は
これを
きゝて
やむ事をゑず
又〳〵よくしんおこり
かのはいはわがうちの
ゐろりなるをもて行たる
なりしからば此たびこそ
われにあたふるとく【我に与ふる得】
なりとて□□□の【いろりの】
はいとりもちてこれも
かいだう【街道】のかれたる
なみ木にあかり
今やとまつ所へ
さるおだいみやうの【さるお大名の】
おとをりにてそれに
をるは何ものと
とがめられ
これははな
さきぢゝなりと
いふにしからば
さかせ見すべし
と仰あるに
よく八は
しめた
ものと
はいをしたゝか
つかみてまき
けるにはなは
さらにさかづし
ておりしもふきくる
かせ【風】につれそのはい

ちつて
とのもきん
じゆ【近習】のもの
やにはによく八
を引ずりおろし
さん〴〵に
きられ
ける
とぞ

コマ14

それよりよく八はほう〳〵いへにかへりけれども
そのまゝたをれてしゝたりける【死したりける】ひだう【非道】
とんよく【貪欲】のむくひぞおそろしく
正じき庄兵へはおほくのかねを
えたるうへとのよりごふち【御扶持】
てうだいにて【頂戴にて】よき やうしを【ようしを】【養子?】【容姿?】
なしなにふそく
なくくらし
けるとぞ
めで
 たし
  〳〵
   〳〵〳〵

一勇斎
  国芳画【歌川国芳

金太郎一代記(きんたらういちだいき)
義経一代記(よしつねいちだいき)
桃太郎誉家土産(もゝたらうほまれのいへづと)
舌切雀(したきりすゞめ)宿(やどの)さかえ
花咲爺(はなさきぢゝ)誉(ほまれの)さきがけ
十二月(じうにつき)子供(こども)あそび
仮名手本(かなてほん)忠臣蔵(ちうしんくら)
きつねのよめ入
音(おとに)聞(きく)狸(たぬきの)腹(はら)つゞみ
菅原(すがはら)伝授(でんじゆ)手習(てならひ)鑑(かゞみ)

せけんむるい 御おしろい 美艶仙女香
同 黒あぶら 美玄香
京ばし南へ
 壱丁目門
   坂本氏

尾州名古屋下【中?】下樽屋町
  玉野屋新右衛門
江戸芝明神前三島町
  和泉屋市兵衛

(金時)狸の土産(きんとき たぬきのいえずと)

https://honkoku.org/app/#/transcription/ECBBE50B8CF0800EEA546906111AAE59/1/?ref=%2F
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


きんとき たぬきのいえずと
(金時)狸の土産
発行年:1772年(安永元年)
作:不明
画:鳥居清経

登場人物

  • 坂田金時:金太郎さんの大人になってからの名前。化物の敵。
  • 黄石公(こうせきこう):夢のお告げ。
  • 金の茶釜:土中より出て羽生えて飛び去る。
  • ぶんぶく寺たぬき:年を経た狸、化物の先生。大茶釜に化ける。
  • ばけものたち:狸の弟子たち。
    • やくわんのたゆうあつゆ(やかんの太夫熱湯):金時と戦う。
    • ふたまた:猫又。金時を襲う。
    • きつね:おせんに化ける。
    • ひとつめ
  • お千(おせん):その正体はきつね。金時をまどわす。

物語

 坂田の金時が戦に疲れてまどろんでいると、夢に黄石公が現れて、東にかさものと呼ばれる松の大木があり、根元に名鉄があるので剣にすれば天下無双の一振りとなる、と教える。また巻き物を与え、この書を開き、手柄をなせと言う。

 黄石公の教えにしたがい東へ行くとかさものの松があったので、人足を集めて掘らせると金の茶釜が出てくる。茶釜に翼が生えて舞い上がる。また茶釜を掘った穴はどこまで続いているかわからない深い穴だったため、金時が自ら飛び込んで調べに行く。

 金時は穴を調べようと飛びこみ行くと、火山のふもとに出る。まんまんたる川があり、そのほとりに飛び越しの松という目印がある。金時は山の頂に家があるのを見て、きっと化物の住み処に違いない。自分も武者修行の身、ばけもの稽古と行こうとその建物を目指す。その建物は、かつてぶんぶく寺という寺だったが、今はころう(狐狼?)の住み処となっている。

 としをへた狸がぶんぶく寺の主で、化物の先生として多くの弟子も集まっている。やかんの太夫熱湯という者が茶釜の行方をたずね出そうとしている。どうやら茶釜がないと化物たちは力が出ない様子。

 金時は化物たちの中にとんで入り、茶釜の代わりにやかんをとっちめようと荒れに荒れる。ふたまた(猫又)は爪をといで襲いかかろうとするが、金時が天照大神宮の祓いで祓うとおそれわななく。狐はこざかしくこの場から逃げ出す。残る化物も…(このあたり汚れていて読めず。おそらく狐にしたがって逃げた)。

 狸は金時をうまく騙して帰す計画をする。「その昔、茶釜に毛を生やして金時をあざむいた術を皆にも見せよう。どうにかやかんを取り返したいものだ」

 金時は化物を追い散らし、(もとの場所に戻ろうと?)そこかしことたずね歩く。美しい社の前でお千という娘と出会い、色香に迷う。

 金時はお千に教えられた通りもときた道にもどろうとすると、高さ三丈(11m?!)余りの茶釜があったので、化物の仕業だろうと梯子をかけて中身を調べようとする。この茶釜には毛が生えている。狸が化けたものである。中には化物たちが沢山隠れている。

金時に茶釜を打たれて中にいた化物たちは残らず追い出される。今はかなわないと思った狸は金玉を広げて姿を隠す。お千の正体はきつねだが、金時に惚れ、いろいろに騙す。/惚れているのか、騙そうとしているのかよくわからないが、戦いの最中にお茶をすすめているので惚れたふりをして騙そうとしているという意味かもしれない。

 結局、金時にはかなわないと化物は降参する。金のちゃがまはおせんが隠していたが出てきてあやまる。狸の金の皮(略してキンチャク)、狸の腹の皮を張った狸の腹鼓を金時に差し出し、さらにおせん狐も嫁として差し出す。

 夢のお告げで見つけたものなので、茶釜は君へ奉る。金時は化物たちに担ぎ上げられ、茶釜は車に乗せて帰る。

 金時は本国に帰り、茶釜は神として祀られ(谷中の)笠森に納まる。千住の茶釜はこの分かれである。

メモ

  • 黄石公:中国秦代の隠者で、前漢張良に兵書を授けたという伝説がある。この物語でも金時が巻き物を授かっているが、巻き物は特別ストーリーには関係なく、張良のパロディーになっている。
  • 茶釜に毛が生える:狸が茶釜に化け寺などに売られるが、磨かれたり火にかけられたりして狸の正体を現すという話が全国の昔話にある。特に有名なのは館林の茂林寺の話。茶釜に毛が生えるというのは化けの皮がはがれるというような意味で使われる事が多いが、ここでは狸が茶釜に化けて人を驚かせた過去の栄光を言っているようだ。
  • 茶釜とやかんの関係:笠森おせんを参照せよ。
  • 笠森おせん:1763年(宝暦13年)ごろ、江戸の谷中笠森稲荷で茶屋の娘として評判になる。今でいう会いに行けるアイドルのような状態で、とんだ茶釜と言えばおせんのことだった。1770年(明和7年)ごろ、突然姿を消し、おせんの年老いた父親が茶屋を続けていたため「茶釜がやかん(はげ親父)に化けた」と大騒ぎになった。結婚したからだといわれている。この物語で狐が化ける「お千」は笠森おせんのことである(お仙という字をあてるのが一般的)。また茶釜を掘り出す話なのにやかんと戦ったりするのも笠森おせんの話から来ている。
    • わらべうたに「向こう横ちょのお稲荷さんへ、一銭あげて、ざっとおがんで "おせんの茶屋へ"」とあるのは笠森おせんの茶屋の事だという。ちなみに下の動画の一曲目がそれ。民謡なので各地で少しずつ違う歌詞や節回しでうたわれていると思いますが、これは葛飾区の出版物に載ってた楽譜を読んで覚えました。

www.youtube.com

f:id:chinjuh3:20220321114434p:plain
金時は金の茶釜を笠森に祀った。上にはしっかりやかんものっている。

笠森稲荷の場所

天竺儲之筋(てんじくもうけのすじ)

https://honkoku.org/app/#/transcription/5AE57393F17CCA5CD3674CA0C8446C3D/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


てんじくもうけのすじ
天竺儲之筋
発行年:1785年(天明五)
作:市場通笑
画:勝川春英



 市場通笑の本は、仮に文字がすべて読めたとしても、当時の流行を折り込んだよくわからないたとえ話などがあり、細かい点では理解しにくいのが特徴です。この本も、ストーリーはおおむねわかるものの、コマ4の息子株が云々より後ろをはじめ、あちこちに何を言ってるのかよくわからない点があります。

登場人物

  • 雷神
  • 風神
  • 北斗七星の破軍星

物語

 天竺といっても日本の様子と違いはなく、強いていえば日本にないのは虎の皮のたぐい、天竺にないのは笠や下駄。天竺には雨が降らない。人間は大和見物をしたくらいで先生きどりになっているが、天竺の人たちは雲に乗ってどこへでも行くので世界中見ないものはない。下界の名所は太夫座敷の見物だが、遊女屋や芝居小屋に屋根があるのが困る(空から中が見えないので)。

 天竺人は下界の風流のことは興味のない者が多く、堺町、浅草、芝など賑やかなところを見たがる。しかし久米仙人の話を聞いているので美しいものを見ても注意して、下界に落ちるのは雷様だけである。
 富貴天にありというが、雷には稲妻という美しい女房がいて腹っぷくれ(食うに困ってない)。居候が大勢いて、遊び歩く時もそういう手合いを連れて歩き、自分の雷太鼓を持たせておくので世間では太鼓持ちと呼んでいる。下界で雷が落ちるというのは太鼓持ちがおどけて足を滑らせるからであって、雷様が落ちるのではない。雷様と一緒に歩くけだものというのはこの者たちのことである(雷獣のことを言っているかもしれない)。

 そういったお取り巻きの中でも、とくにお気に入りの役者がもうけ話を持って訪ねて来る。天竺でも金もうけが嫌いな者はないのでひとつ当ててやろうと相談にのる。# この役者は「とうせいはやる□□かたといふ小もんをはしめたぢよさいのないやくしや」と書いてある。挿し絵は角の生えた天竺人で、役者ではなく薬叉かもしれないし、それをかけた洒落かもしれない。□□の部分は不明瞭で読みにくいが「さやかた」と読めなくもない。このあと話は雷神と風神だけで進んでいくので、「やくしゃ」がなぜ出てくるのかもよくわからない。

 雷はもうけ話なら風神も仲間に入れようと相談に行く。風神も乗り気で、天気がよければさっそくやろうと言っている。

 鬼神のようだの鬼のようだのとはいうが、鬼も大和歌には感心する。鬼神は間違ったことをしないのたとえの通り、梅若様のご難義には泪雨をふらせ、曽我兄弟の虎御前にはもらい泣きする。しかし近年では「手替わりの涙雨」だと馬鹿にしてやめたようだ。お人好しかと思えば如才ないところもあるようだ。

 鬼たちは下界へ行き、どんな天気でもあつらえますという商売をはじめる。たちまち評判になり注文殺到。

 繁華な所では雨は降らない分にはあまり困らないが、年礼(年賀の挨拶)も済むと人はお湿りを欲しがり、二百や三百なら出してもいいと頼みに来る者が大勢いて、いくらでも儲けられる。

 田舎からの注文は多く、田畑の植え付け、取り入れ時分の好天、出船入船に良い風を頼まれ、なんでも引き受けて大もうけする。鎌倉のさる大名が十一日にお船遊山に行くので晴れにしてほしいと言うが、その日は近くで雨を降らせる予定になっている。しかし馬の背を分けるというように、やりようがあるので心配御無用と引き受ける。

 雷神風神は天気をあやつって儲けているのを北斗七星が聞きつけて、破軍星のうち一人が説教にやってきて「お前達のやり方は不埒千万、我々(星たち)まで外聞が悪い。金銀は国土(人間界の)宝だから全部あっちへ返し、欲心をやめなさい」と叱る。雷神風神はあやまりいる。

 雷神風神は儲けた金を下界に雨あられと降らせて返す。人々はそれを拾い集めて、支払いはみんな済ませて買いたいものは思いのままに買い、全員上機嫌で良い暮れでございますといい合い笑い合い、正月を迎えた。

 こうしてお天気はもとに戻ったが、田畑のために二日も降り続けばいまいましいなどと言われ、雷様も自棄を起こす。天の事は悪くいわないものだ。天界は如才なくやってくださっていますよ。おしまい。

メモ

  • 天竺(てんぢく、てんじく):中国で使われていたインドの古名。インドを含む遠い外国のこと。この話では「てんちよく」のこと。
  • てんちよく:辞書にもないためどんな字を当てるかわからないが、太陽や月などが住んでいる天界のこと。この物語では洒落で天竺(てんぢく)と呼ばれている。
  • 久米仙人:大和の竜門寺で飛行を修行していたが、吉野川で洗濯してる娘に見とれて空から落ちる。そのまま結婚して俗界で暮らすが、藤原京造営の際に(平城京または東大寺大仏殿造営の際とする場合もある)仙人なら術で資材を運んでみろと言われ、修行で神通力を取り戻して山から木材を飛行させて運んだと言われている。その功績で今の橿原市あたりに免田をたまわり久米寺を建立した。/泡盛の銘柄に久米仙というのがあるが、これは久米島に住む仙人が絶世の美女に化けて人に酒をすすめたという別の話に由来するとのこと。
  • 富貴天にあり:高い地位や財産が得られるかどうかは天の采配によるもので人間の力でどうなるものでもないという事。この物語では登場人物が天竺人なので金には困っていないというような意味で使われている。
  • そばしりのゐそのでんがく:不詳。ゐそは読み方が合っているかどうかも曖昧。でんがく=田楽。食べ物であることは確か。
  • 味噌吸い物:味噌で作った汁の上澄みで作った吸い物。
  • 乙りき(おつりき):風変わりな、変わった。
  • 鬼神に横道なし:鬼神=天地の神霊は正道を外れることはしないという意味。
  • 梅若様:梅若は京都北白川の吉田少将の子だが、人買いに誘拐され、今の墨田区にある木母寺あたりで病死する。
  • 二月十五日:梅若忌のことだと思うが、それなら三月十五日のはずなので、横棒が一本欠損しているかもしれない。
  • 手替わり:前にしていた人とかわり、別の人がすること。
  • 茶にする:馬鹿にする。
  • 結構人:お人好し。
  • 如才のない:ぬかりない。
  • とんしゃく、とんじやく、とんちやく:頓着のこと。現在はとんちゃくと読むが、江戸時代は「とんぢゃく」と濁ったらしい。そのため「とんぢやく」「とんじやく」の表記があり、濁点が消えた「とんしやく」も存在する。
  • 年礼(ねんれい):年始まわりをして挨拶をすること。
  • 下り雪駄(くだりせった):上方で作られた雪駄を、江戸ではそう読んだ(都は京都なので江戸へ来るのは下り)。
  • 田畑の仕付け:作物の植え付け。
  • 請け込む:引き受ける。
  • 味噌を上げる:自慢する。
  • あやかり者:他人があやかりたいと思う幸せ者。
  • 陸物(りくもの):畑の作物のこと。水田の稲に対して陸でできるものだから。
  • 馬の背を分ける:狭い地域のこっち側では雨がふり、あっち側では晴れているというような状態。馬の背の肩側だけ濡れる様から。現在でも夕立などで「車のフロントガラスの右半分だけ雨が降ってる」などと言うのと同じ。
  • 破軍星:北斗七星の柄杓の柄の先端の星と言われるが、ここでは「破軍星の星のうち一人」と書かれているので、北斗七星を構成する星全体を意味するか、あるいは破軍星が何人もいるという設定だろうか。
  • 小野川・谷風:どちらも相撲の横綱の名前。
  • 五穀成就:五穀がよくできること、またはできるように願うこと。
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雲の上から下界を見物する天竺人たち

 太夫座敷も芝居小屋も屋根があるので中が見えないと文句を言っている。天竺(天界)は雲の上なので常に晴れている。「屋根をふくというなぐさみはない」というような事も言っているのでひょっとすると家に屋根がないという設定かもしれない。
 なお「屋根を葺く」はめくりカルタで博打をして遊ぶことをさす隠語(雨の日は外で仕事ができないので屋内で遊ぶから)なので文字通り天界に屋根がないかどうかは不明。コマ3の挿し絵は天竺の町並みのようだが屋根が書かれている。

竜宮苦界玉手箱(たつのみやこくがいのたまてばこ)

https://honkoku.org/app/#/transcription/999A2C95B7AB74A556CB464C94C6092C/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


たつのみやこくがいのたまてばこ
竜宮苦界玉手箱
発行年:1797年(寛政九)
作:曲亭馬琴
画:北尾重政

登場人物

  • 三浦屋島太郎:略して浦島。おばの家で釣りをしているうちに寝てしまい、竜宮から迎えが来る。
  • 浦島のおば:まつさきで田楽屋を営む。
  • 台の物の亀:竜宮の方。浦島をのせて竜宮に連れて行く。
  • 乙姫:竜宮の花魁。
  • 鯛:同、花魁。
  • 猿:浦島の知人で乙姫を買いに竜宮に来る。
  • カニの夫婦:竜宮の住人。猿の知人。猿に柿の種をおごられて焼き飯でもてなす。
  • くらげ:竜宮の回し方。猿に金を握らされ乙姫の様子をさぐる。
  • しじみ:まだおぼこ。禿から新造になりたての遊女。
  • いしなげ:または、いしなぎ。遊女。
  • 伊勢海老:腰が曲がるまで新造を続けている年増の遊女。
  • あしか:寝坊で床が済むと屏風の外で寝てしまう遊女。
  • たこの:乙姫に協力して猿をはめる女郎。
  • 鮑(あわび):竜宮の女郎屋に来た客。

物語

 三うらや島太郎は略してうら島と呼ばれている。なんでも器用にこなす男だが運がなく、ぶらぶら暮らしている。六月朔日、浅草富士(浅間神社か)に参詣し「まつさき」で田楽屋を営むおばの家で売り物の菜飯と田楽を御馳走になり、涼しくなるまで裏の川で釣りでもしてから帰りなさいと竿を渡される。

 おばにすすめられて座敷から裏の川へ釣り糸をたらすがだぼはぜ一匹かからず眠くなる。夢に台の物(作り物)の亀が現れてうら島を甲羅にのせて連れて行く。三挺立の猪牙舟より早く、二百増しの駕籠よりも速やかに竜宮に到着。そこは吉原と違わぬすばらしい流れの里(遊廓)だった。

 ところで、うら島と「一つ長屋の佐次兵衛は先年四国をめぐって猿となりしが」どういうわけかカニと親しくしており、かの乙姫を買おうと竜宮の中の丁のあしべや杢蔵というカニの店に訪ねてきて、闇雲に柿の種をばらまいて奢り、カニも焼き飯を炊いて馳走する(猿蟹合戦のパロディ)。

 猿は乙姫のところに通い詰めるが(竜宮は遊廓で、乙姫も遊女)なんだかんだと理由をつけられ顔ひとつ拝めない。そこでくらげの若い者に銭をつかませて乙姫の様子を探らせる。くらげはたちまち金に目がくらみ、乙姫は浦島という色客があげづめにしていると大げさに報告してを煽る。猿のほうでも今時の山だし(田舎者)は油断できないと思い、お前の働き次第では千住に茶屋くらい買ってやるなどと大きな餌をちらつかせる。

 鮑(あわび)は花魁の鯛に会いにきたようだが鯛は自分に似たイシナギ(イシナゲ)を名代に鮑のところへやろうとする。しかしイシナゲも鮑が気に入らず、ほかにもお客さんが来てしまって…とか理由をつけて後回しにしている様子。鮑は懐の大きいところを見せようとして「俺はいいからほかの客を大事にしろ」などと言って遊廓で独り寝。これぞ鮑の片思い。大金を払ってこのざまなので馬鹿のむき身などと呼ばれている。

 うら島を連れてきた台の物の亀と、猿の手下のくらげは互いの客を贔屓して言い争いを始める。同じ店の若い者が争っているのでは困るというので、これからは二人の客人には今夜座敷に寝た者は明日は名代というふうに一日ずつの交代にすることで話が来まる。猿はあとからの馴染みなので初日は名代となったが、新造たちが猿の相手をいやがってとうとうくじ引きで決めたところ、今年28才になる伊勢海老があたる。腰が曲がるまで新造を続けた(エビなので腰は子供の頃から曲がっている)大婆連なので何をするにも理由をつけてやらない。おかげで猿は煙草の火にも事欠く始末。

 翌日はうら島が名代の番で、今度は新造たちがこぞって名代になりたいと言うが猿の時と同じようにクジにする。あたったのはアシカで、アシカなので床が済むと屏風の外でいびきをかいて寝てしまう。その隙にほかの新造が膳でもすえるのではないかと花魁は始終様子を見に行くので、猿はせっかく花魁の座敷に寝ても名代と変わらなかった。

 うらしまは乙姫との仲を邪魔する猿を追い出してしまおうと、一芝居打つことにして、「たこの」という、よく吸い付く女郎を見立てて何か計画する。

 たこのは打ち合わせの通り、猿が便所に立ったのをみすまして、空いた座敷から出てきて猿を誘惑する。自分の客は早帰りしてしまったのでわたしの座敷にいらっしゃいよ。そう言われて、乙姫ならどうせ来ないからと誘いに乗る猿。

 猿がたこのとよろしくやっているところへ申し合わせたとおりに乙姫が現れて、猿は驚いて肝を潰し生真面目になってしまう。クラゲが猿の生き肝を取りに来る昔話の因縁はこれである。この話は因縁が沢山あるが大方作者のおふざけだろうと書いてある。

 花魁の乙姫を裏切った猿を新造っ子たちがよってたかって折檻する。どこへ行っても馴染みの遊女ができない呪いだといって焼きゴボウを猿の尻におしつける。そのため猿は尻が赤くなった。また、たこのは表向きにはこの騒ぎで余所へくら替えしたということにしてあるが、実はあと二三日で年期があける事になっているので、乙姫は心付けをわたし円満に里から出した。くらげは筋や骨が抜けるほど手足をねじりあげられる。くらげ骨抜きの因縁である。

 浦島はまんまと猿を追い出して、乙姫を独り占めできた上、入り用はすべて乙姫のふところから出るのでなんの苦労もなく一箱の金魚(千両箱のつもり)をまき散らし、その名をこの里に留める。

 浦島は一ヶ月もいつづけするうち故郷が恋しくなり、家のことを済ませたらすぐ戻ると約束していったん帰ることにする。乙姫は玉手箱を渡し、決して蓋をとるなと戒める。浦島が亀に乗って家に帰ると、そこには知らない人が住んでおり、話を聞けばあれから三百五十余年たっていて、今は浦島七世の時代だという。子孫に先祖の名のりをしたところでつまらなくなり、玉手箱をあけてみると、中から三百五十年分のあげ代の勘定書きがでてきて、何百万両という借金を子孫にまで背負わせてしまったのかと思ったとたんに三百七十余才のじいさまになってしまった。

 悲観して身投げしようとしたところに暮れの鐘がごーんとなって目が覚める。おばの家で釣りをしながらうたた寝していたのである。夢でなければ捨てていた命と思い以後は精を出して働いたところ、たちまち千両の分限者となり、三百五十から三をとって百五十歳まで生きたという。めでたしめでたし。

メモ

  • まつさき:草双紙によく出てくる言葉で、この話ではまつさきにおばがいると言っているので地名らしい。しかも浅草のふじ(浅間神社?)に参詣した帰りに寄っているので浅草あたりなのかもしれない。別の本には○○さんと屋根舟でまつさきというものに行くみたいなことが書いてあり、正直なんのことなのかよくわからない。
  • 水へんのじゆうさ:不詳。
  • 先くぐりする:人の言動の先を推量して早合点する。
  • 台の物:台の上におめでたいものをかたどって作った飾り物で、おそらく料理か菓子になっているのではないかと思う。正月や婚礼などに今でもそういったものを作る地方があると聞いたことがある。
  • 三挺立の猪牙:普通の猪牙舟より少し大きめで櫓を三挺たてた高速舟だったらしい。正徳三年に(おそらく倹約令で)禁止されたこともあるとか。
  • めうめう(妙妙)おそろおそろ(恐ろ恐ろ):妙妙は見事だということ。恐いほどすばらしい。今っぽくいうと「すごい、ヤバイ」
  • 流れの里:遊廓のこと。遊女を流れ女、流れの身と言うことから。
  • 中の丁(なかのてう、なかのちょう):吉原の通りの名前。仲の町とも。
  • 花貝:桜貝の異称でもあるが、ハナガイという着物を重ねたようなひだのある貝のことでもある
  • 西施乳:西施は中国四大美女のひとり。フグはその旨さを西施の乳に譬えられる。
  • 小田原河岸:日本橋本小田原町。川岸に魚河岸があった。今の日本橋室町三丁目あたり。
  • 珍物茶屋:珍しい鳥獣などを見せる見世物茶屋。。/下谷稲荷町にあったのが有名(江戸語の辞典)/両国、浅草蔵前、浅草広小路、上野山下、下谷広徳寺前などで小屋かけした(日本国語大辞典)/この物語では日本橋の小田原河岸にもあったように書いてある
  • 大口:魚のタラのことを大口魚という。
  • 頭で飯を炊くやつさ:コメツキガニは砂を口に運び微生物をこしとってから砂だけ丸めて吐き出す。それがコメツブのように見える。
  • 一つ長屋の佐次兵衛:安永の頃に流行った俗謡に出てくる人物で四国を回るうち猿になったとされる。一説によれば猟師で殺生の罪から猿になったとも。詳しくは『花芳野犬斑』の「メモ」を見よ。
  • ○印:お金のこと。まるじるしと読む。
  • 焼き飯:別の草双紙にも出てくるが、どうも焼きおにぎりのことらしい。ただの握り飯より日持ちするので旅に出る時に持っていく。この本では猿が柿の種をくれたのでカニがお返しに御馳走している。
  • 初名代:一人の遊女に二人以上の客から指名がかかった時に、新造(若手の遊女)が代理でどちらかの客の相手をすることを名代と言う。初名代は始めて名代を務める事だろうか。
  • 山出し:田舎から出てきたばかりの者。
  • ろいろ(呂色):漆黒。濡れたような美しい黒。
  • 三つ布団:吉原の遊女が使う三枚重ねの敷布団。
  • 太平:太平楽(たいへいらく)。勝手気ままなことを言うこと
  • げびぞう(下卑蔵):下品だということ。下卑に蔵をつけて人名のようにする洒落
  • まわしかた:遊里で遊女の送り迎えなどをする者
  • いしふし:不詳。いざこざのことか。
  • あしか:アシカはよく寝る生き物として知られていた
  • 五分漬け:漬け物の一種。干し大根を五分ほどに刻み、醤油・味噌・砂糖などの煮汁に漬けたもの。五分切りともいう。
  • 翡翠鴛鴦:男女の契りが固い様子。鴛鴦はオシドリのこと。鴛がオスで、鴦がメス。常に夫婦一緒にいる鳥だと思われていた。それと同じで翡翠カワセミのことで、翡がオス、翠がメス。夫婦セットで翡翠という生き物だと思われている。
  • 内所:遊女屋の主人がいるところ。今の言葉で言えば事務所とか、運営とか。
  • ちんちんかもの羽を並べて:ちんちん鴨の味のバリエーション。二人しっぽりと寝る様子。
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うら島が金魚(小判のつもり)をばらまくシーン