@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

化物世界夜半嵐(ばけものせかいよわのあらし)

https://honkoku.org/app/#/transcription/322F06CBBDE587193A86D7E1E95F7509/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。


ばけものせかいよわのあらし
化物世界夜半嵐
発行年:1805年(文化二)
作:葛飾北周
画:感和亭鬼武

登場人物

佐渡のしゅばん(朱盤)、化物の親玉。しゅのぼん。
江州伊吹山のさとり(悟)、化け修行の途中で朱盤に襲われるが撃退する。
剣ヶ峰のじゃかん(蛇冠)、朱盤の友だったが裏切られる。
しゅったん(出丹)、蛇冠の部下。
じゃりん(蛇鱗)、蛇冠の息子。
ばます(馬升)、蛇鱗を助ける。
にかり(爾加里)、馬升の娘。

物語

 佐渡の朱盤は自分の術に自信を持っていた。剣ヶ峰の蛇冠を訪ねて、これから化物仲間をおどしに行くから見に来ないかと誘う。米山峠あたりで化け修業中のさとりに出合い、恐ろしい姿に化けて襲いかかるが、さとりも化けて撃退する。負けたことを恥に思った朱盤は、ものかげで見物していた蛇冠を口封じのために殺してしまう。
 部下の出丹という者が探しに来ると、蛇冠はすでに虫の息で、事の次第を語ると死んでしまった。蛇冠の息子・蛇鱗は父の仇を討とうと佐渡へ向かう。越後の出雲崎佐渡の対岸)で体を休めていると、雲方(馬方のように雲に妖怪などを乗せて運ぶ商売)たちが現れ、弱みにつけこんで大金をふっかけてくるので喧嘩になる。
 蛇鱗一行は雲方たちをしりぞけ、自力で海上を飛んで行こうとするが、もうすぐ佐渡にたどり着くというところで暴風にあい散り散りになって海に落ちる。出丹だけは泳げたのでなんとか磯を目指したが、蛇鱗は破船の帆柱に捕まってどこかへ流れて行ってしまった。
 出丹は佐渡小木港というところに泳ぎ着き、岩にとりついてよじのぼると、そこにいたのは仇の朱盤だった。出丹は名乗りをあげ朱盤に襲いかかるが、朱盤はあっさり返り食い(返り討ち)にする。出丹は両足を持って引き裂かれて死んでしまう。
 越後と加賀の間にある親不知子不知というところの山に、馬升という妖怪がいて、海上を流れてくる蛇鱗をかわいそうに思って引き上げてやる。事情を知った馬升は蛇鱗を家に連れ帰り、散り散りになった供の者たちも探してきましょうという。馬升の娘・爾加里が蛇鱗を見初め、愛を交わすようになる。
 ある日、ばけものの死骸が流れ着き、見れば惨殺されたし出丹だった。蛇鱗はなんとしてでも佐渡へわたり仇を討ちたいと馬升に申し出て、すべてが終わったらかならず迎えに来ると爾加里にも別れを告げる。
 馬升のところで力をつけた蛇鱗は今度こそ佐渡へたどり着くが、二つ岩で山賊に襲われてなぶりものにされそうになる。もはやこれまでと供の化物たちと山賊に食いかかるが、多勢に無勢で勝てるわけもない。ある辻堂まで逃げてきて、また山賊に捕まってしまう。最後に山賊たちの頭の名前を問えば、朱盤先生であるという。蛇鱗たちが来る事を知っていた朱盤は、手下に迎え撃つように命令していたのだった。
 その時、辻堂から何ものかが出てきて蛇鱗たちを助けた。それは化け修業中のさとりだった。二人は山賊たちをかたづけ朱盤のもとへ。蛇鱗が朱盤と相対する間、さとりは手下たちを助食いで片づける。蛇鱗が劣勢と見るや、助食い御免と朱盤に食いかかり、この隙に蛇鱗は朱盤を討ち取る。すべてが終わると父・蛇冠の霊が現れにこにこと笑いながら消えていった。
 蛇鱗は本国へ帰り、馬升の娘・爾加里を嫁にもらい、蛇冠のあとをついで化物の頭となり、めでたき春を迎えるのだった。

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位置関係。剣ヶ峰は日本中にあるのでここではないかもしれないが。

メモ

  • 見越し入道も越後の大坊主も出てこない妖怪物語。
  • 化物の親玉的存在は佐渡の朱盤=しゅのぼん。ただし悪役。
  • 朱盤を討ち、親の跡目をついだ蛇鱗が最後には化物の頭になる。
  • 言葉
    • ひぎょう、空を飛ぶ術。飛行または飛業か。
    • 抜群すぐれ、ばつぐんという言葉はもうあった。
    • にの字にけの字をはやす、逃げるという意味。
    • じやぐわんさんじやぐわんさんじやぐわんすう(地口らしいが元の形がわからない)
    • わりなき(理なき)、道理がない、分別がない、むやみやたら。理屈をこえるほどの。
    • 衆道のちぎり、蛇輪を捕らえた山賊たちが衣類をはぎ、蛇鱗に衆道のちぎりを結ぼうとする。
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さとりに襲いかかるも撃退される朱盤。右端の木の陰からのぞいているのが蛇冠。