@chinjuhさんと読む草双紙・はてな出張所

ばけものが出てくる草双紙のあらすじ等をまとめたものです。草双紙は江戸時代の絵本です。

怪物つれつれ草 (ばけものつれづれぐさ)

https://honkoku.org/app/#/transcription/3168C38CA07F0052F8EB909E3C4B46AC/1/
# 上記リンク先ではくずし字の原典と、それを現代の文字に置き換えた翻刻文の両方を読めます。

ばけものつれづれぐさ
怪物つれつれ草
発行年:1792(寛政四)
作・画:山東京伝

登場人物

化物の頭、見越し入道(箱根の先で隠居中)
五位鷺


河童
猫又
手のある行灯(あんどう)
うぶめの鳥

かかし
朝比奈(一文凧の絵)
一つ眼(鎌倉権五郎景政を演じる役者。景政は隻眼だったと言われている)
大入道(武蔵坊弁慶を演じる役者)

物語

 箱根の先で隠居中の見越し入道をはじめ、妖怪たちが集まり人間がいかに化けるかということを百物語する。

  • 狐と狸、つわもの屋敷で肝試し。一つ眼と大入道が出てくるが、実は芝居小屋で出てきたのは鎌倉五郎景政と武蔵坊弁慶
  • うぶめの鳥、耳が口まで裂けた人に出くわして逃げる。実は西瓜を食べているだけ。
  • 鬼、節分の夜に蛇遣いと女の鬼を見る。実はのらくら亭主とそれに怒って角をはやした女房。
  • 五位鷺、世界を見ようと飛び立ち、翼を休めるためにとまった岩が歳をへた大亀の甲羅だった。実は布団をかぶって寝ている年の功(老人)。
  • 見越し入道初めて見越される。実は高下駄を履いた大道芸人

(ここで巻が変わる)

  • 狐と狸、猪と鹿の煮売りを見て「狸汁にされる」「きつね色に焼かれる」と恐れて逃げ出し「もう狐狸狐狸(こりごり)」。
  • 河童、見せ物の看板に河童の日干しがあるのを見て逃げる。
  • 猫又、化けるための布さえ手に入らず、人間にぬれぎぬをきせられる。
  • 胸の大きい人はなんでも飲み込む。籠耳の人は耳に穴があり川と繋がっていて聞いたことはなんでも流れる。風が吹くと馬の耳に変わる人がいる。ばけものたちにとってはすべて恐ろしい事ばかり。
  • 腰から下がないのは幽霊。ほかにも人形遣いの人形や、向島の鳥居、似面行灯などがあるが、化物たちがなにより恐ろしがるのは山田のかかしである。

 ばけものたちが人間のおそろしい化けようを百語り最後の灯を消すと、がたがた音がして落ちて来たのは恐ろしい隈取りをした朝比奈の凧だった。みな肝を潰して消えてしまう。

メモ(気になる言葉など)

  • 春風が「そぼそぼ」と吹く
  • やうきくわうくわう(ようきこうこう)
  • さけくさき風
  • おおさつまのせり出し
  • 弁当の焼き飯とともに肝を潰す
  • どうしたひょうりの瓢箪
  • 野暮じゃござらぬ吸い物のはぜ珍しい(ヤボじゃなくダボハゼ→ハテ珍しい)
  • 穴蔵から兜人形を出すようだ(?)
  • すいかみをくう(西瓜身を食う 粋が身を食う)
  • 上を下へとかえす
  • へびをつかう(のらくらする)
  • 化地蔵さま
  • ぼんのうくぼ(ぼんのくぼ)
  • 六出(雪のこと。結晶が六角形だから)
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なんでも飲み込む胸の広い人と化物たちが恐れる「侠客」

 この「胸の広い人」は化物たちに「頭が長いおじい(おじさん)」とも呼ばれて恐れられています。頭巾が長いのが、妖怪の目には頭が異常に長い化物と見えるらしいんです。この長い頭巾は現代人のわたしたちでもビックリなんですが、一体なんのつもりなんでしょうね?

 そこでツイッターで聞いてみたところ、歌舞伎に詳しい方が「伊達男(侠客)の衣裳だと思います」と教えてくれました。向かって左の人が尺八らしいものを帯にさしてるのも見るポイントらしいですよ。

 歌舞伎をよく知らないのでどういうものが侠客なのかわたしもわからないんですが、強きをくじき弱気を助ける正義漢なんだけど、ちゃんとしたお侍より町人の火消しだったり、遊び人だったりする感じ?ですかね。

 それで立ち回りで尺八を使ったりするみたいなんですよね。たぶん杉良太郎の遠山の金さがが手ぬぐいで戦っちゃうみたいなノリではないかと(このたとえではもう通じない人のほうが多いだろうな)。

 その侠客という役回りの人は、頭に頭巾をかぶってる事があるそうで、それを誇張して描いたのではないかっていう話でした。歌舞伎に出てくる人の頭巾はこんな長くないらしいです。

 誇張だとしたらずいぶん漫画的な誇張だなあと思いながら頭巾の種類を調べてみたところ、ウィキペディアにこういう資料があって、投げ頭巾というものが近いんじゃないかと思ったわけです。

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頭巾のいろいろ/平凡社 大百科事典 1935年、wikipedia より孫引き

 画像なかほどの段の右寄りにある「抛頭巾」が投げ頭巾です。抛は放り投げるという意味の漢字。頭の長いおじいが被ってる頭巾はまさにこれじゃないかと。この頭巾について調べたら大阪天満宮の祭で行われる「願人踊り」というのに行き当たりまして、こりゃ誇張じゃなく本当に長かったに違いないと思うようになりました。

www.tenjinmatsuri.com

 願人というのは神社や寺の縁日に現れておふだを売ったり、縁起をかついだ大道芸をしたり、各家をまわって念仏を唱えたりしてお金をもらうもぐりの僧侶というか平たくいうと乞食さんの一種なんですけど、さげすまれもしつつ、お祭の風物詩として愛されてもいたんだと思います。

 で、侠客です。問題のコマには「なんでも飲み込む胸の広い人」とも書いてあるから、描かれてるのは願人坊主じゃなくて侠客なのは確かだと思います。なんで侠客が願人坊主みたいなかっこをしてるのか。

 わたしにはそれが、当時の人たちの自由へのあこがれみたいなやつじゃないかと思えるんですよね。願人坊主は乞食なんですが、明るく笑いながら芸を見せて歩く姿が世の中にまつろわぬかっこいい生き方みたいに見えたんじゃないかなあ。

 それで、ちょっと遊んでる感じの若者たちが、願人さんみたいなファッションを真似たんじゃないかなあと。歌舞伎の仁侠は尺八を持ってることがあるそうなんですが、それもたぶん普化宗(虚無僧)の真似なんじゃないかなあ。

 ってなことを、いつもテキトーに妄想するんですが、あんまり根拠もないので信じないほうがいいかもしれないです(笑)

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侠客が出てくるコマに翻刻文をはめこんでみました

 上はtwitterにも貼りましたが、侠客の出てくるコマに翻刻文をはめこんでみました。オリジナルは文章が書き文字でくずし字なんですが、こうやって翻刻したものを貼ると古文のままでもぐっと読みやすくなるでしょう?

 「頭が長い」「胸が広い」も気になるんですが、その侠客たちが「ちつと古ひがウワバミは俺が紋に付けているは」と言っているのも注目したいポイントです。右側で驚き逃げ惑う妖怪たちの中にウワバミ(大蛇)がいて、向かって右の侠客が着物につけてる家紋が「カタバミ紋」なので、駄洒落なんです。それはわかる。

 しかし「ちっと古いが」といってるのが何の事なのか、結局わからなかったです。着物につける紋なら自分の家の家紋じゃないかと思うんですが、それだとちっと古いとはならないと思うので、昔流行った何かをまねてあえてその紋を付けてるんだろうなとは思うんですけどね。